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埋まらない【ショートショート】
結婚三年。うちにはお金がなかった。だって夫は生活費を入れなかったから。私の稼いだお金でやりくりした。婚前の貯金はすっからかんになった。
姑はガンだった。姑が亡くなるまで寄り添い尽くした。けれど葬儀では身内の席に座ることも許されず。
もうくたびれ果てていた。電気コードで首を絞めたくらいではどうにもならない。
いっそこの体を穢してしまいたい。
わたしは不特定多数の男性と肉体関係を結ぶようになった。
顔も名前も覚えていない。もとより知らないし、知る必要もない。名前と顔のない男たちに体を開いた。
そうしても当然絶命するはずもない。
実は私はそんな中にもぬくもりを求めていたのかもしれない。そのうちの二人と何度か会うようになった。
はやく離婚したかった。けれど離婚したら私の人生終わりだとも思っていた。
大晦日、待ち望んだ日がやってきた。夫は弁護士を語る男から私に電話をさせ、「私は不貞を働きました」というなんとも陳腐な書類にサインさせられ、家から追い出された。
夫がかわいそうなので、3日ほど車中泊し、許しをこうふりをしてやった。勿論許されたくなどなかった。さっさと終わらせたかった。
おいてきた猫。あの子はどうしているだろう。がさつな夫一家には懐かず、私だけにしか心を開かなかった。それだけが心残りだった。夫はインポテンツで、治療しなかったから幸い子はいなかった。
弁護士は不出来で、二百万をとられた。なくした婚前の貯金も二百万。笑ってしまう。夫たち四兄弟は揃いも揃って金遣いが荒く、まるで貯金がなく、姑の先端医療の費用を肩代わりしようとしたが、母に止められたのを思い出した。
共通の友人がいたが、夫がかわいそうで、心配してくれた人にも、こちらから連絡しなくなった。
結局そのうちの一人と、離婚後しばらく付き合い、たまたま他の出会いがあったので、また別の人と付き合った。
何人の人とつきあったか。何人の人とただ体の関係を持ったのか、いつしか数えるのも忘れてしまった。
結局、体を交えても、埋まるものは何一つないのだ。もしそれで埋まるとしたら愛があるから。愛を確かめる行為はそれだけではないが。
体だけでは何も埋まらない。