ゴーストタウン【ショートショート】
ゴーストタウンって静寂に満ちてると思ってた。こんなにわいわいガヤガヤしてるなんて。
訳あって突然打ち捨てられた商店街。
「今日はキンメダイがいいの入ってるよ」
「大根一つちょうだい」
「おじさん、豚こまと、あとコロッケもあげてくれる?」
頭の中に声がこだまする。何これ?生霊?思念?
この商店街、ほんとに訳あってある日打ち捨てられたから、余計に思いが残ってるんだろうか。
カウンターを持って、住宅街へ入っていく。
「ずるいー、今度僕の番ー」
「逆からのぼっちゃいけないんだよ」
公園から子供の声がさんざめく。
家の前を通ると、草茫々でプランターも干からびているのに、何か手入れされた庭のような錯覚を覚える。
なんだろうこの違和感。
僕は面白がって、動画サイトへ上げようと思ってこのゴーストタウンを訪れただけだ。なんの正義感もない。それでただ再生数を稼ぎたかっただけなのに。
まさかこんな不思議な現象に取り巻かれるなんて。
しかも動画には残せないし、誰にも伝えようもない。
カウンターの数値が上がる。
これ以上入っちゃいけない。素人でもわかった、
声にならない悲鳴が頭に響く。怖い怖い怖い。
声も出せずに逃げた。
人々が日常生活を送っているようなゴーストタウンを抜けて。
数年後その場所は取り壊された。あの声の主達はどこへ行ったのだろうか。いや、遺されたのはあの声だけで本人達はどこかに生きているのだろうか。いずれにせよ、あの声は、あの思いは、もう行き場がない。