2022年12月の記事一覧
冬の薔薇園にて【ショートショート】
バラ園を歩く。
ここはいつでも開放されているわけでなく、バラの時期だけだ。
何気なく外の空気を吸いたくなって来てみたら、開いていた。ラッキーだ。
しかし、僕以外の見物客は他に一人しかいない。
二十代くらいの女性が一人、こんな寒い中、微動だにせずピンクの薔薇を眺めていた。
余程好きなんだろうな。
僕のお目当ての薔薇も咲いていてラッキーだった。何枚も丁寧に丁寧に写真を撮った。
「ヘリオトロープ、
正義の果て【ショートショート】
正義の味方は、便利なものをもらった。
切り替えスイッチのようなものだ。
気に入らない‥おっと、悪事を働くものは、消すなりミュートするなりしてしまえばいい。
む!タバコのポイ捨てか!こいつは即消しだな!私がボタンを押すと、その男は一瞬にして消えた。
電車に乗った。女子高生たちが同級生の悪口を大声で話しているのが耳障りだ。よし、ミュートしてやる。これで彼女たちは私の視界には入ってこない。
電車の
真冬の薔薇【ショートショート】
真冬の薔薇。
彼女を初めて見たときそう思った。
凛として、力強く、彼女はステージに立っていた。
地元の小さなライブハウスで、彼女だけがひときわ輝いていた。
やがて彼女はスターダムをかけ上がった。
彼女がそんな脆さを抱えているなんて、誰も知らなかった。
人気絶頂の時、彼女は命を絶った。
彼女の支えがたった一人の男性だったなんて、誰も知らなかった。それすらも噂レベルに等しい。
彼女は幼馴染に認
ゴーストタウン【ショートショート】
ゴーストタウンって静寂に満ちてると思ってた。こんなにわいわいガヤガヤしてるなんて。
訳あって突然打ち捨てられた商店街。
「今日はキンメダイがいいの入ってるよ」
「大根一つちょうだい」
「おじさん、豚こまと、あとコロッケもあげてくれる?」
頭の中に声がこだまする。何これ?生霊?思念?
この商店街、ほんとに訳あってある日打ち捨てられたから、余計に思いが残ってるんだろうか。
カウンターを持って、