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あさき
2020年8月20日 22:09
真夏の午後3時。カフェで涼むのは最高だ。一面ガラス張りの窓から見下ろす交差点。陽炎が立っている。こんな中、もう歩きたくない。…けど、歩いて帰らなきゃいけない。店内には、女子高生たちのざわめきが聞こえる。私達は冷たい水に入れられた金魚みたい。ソーダ水。レモネード。アイスティー。冷たい飲み物を飲み干して、ガラスの水槽の中を泳ぐの。そんな物思いに耽っている千夏をよそに、目の前の裕太は
2020年8月13日 22:28
おばあちゃんは、きゅうりの馬に乗って、よっちゃんに会いに行くところでした。「最近は、ちょうちんやほおずきが少ないから、道が暗くて困るねぇ。うちはどっちの方だったかねぇ」今年は、よっちゃんのお母さんが、うっかりして、お墓にちょうちんやほおずきを立て忘れてしまったのでした。「おばあちゃん、俺が照らしてやろうか」「あら、雷太ちゃん」「おばあちゃん、いつも優しくしてくれるからさ。今日、里帰りする
2020年8月6日 16:41
高い草に囲まれた長い坂道。僕以外誰もいない。僕の息遣いと、自転車をこぐ音と、遠くの波の音しか聞こえない。ハァハァハァハァ。全速前進。こいで、こいで、こいで、こいで。向かい風がぶわっと吹いてくる。潮の匂いが開いた口へ飛び込んでくる。もうすぐだ。もうすぐだ。額の汗が風に流され玉になって飛んでいく。この丘を越えたら。海だ。目の端から端まで広がる、海。それを高台から見下ろす。
2020年8月3日 00:15
ここは夜の世界だ。太陽は登らない。暗い夜の中、人々は月や星を頼りに行動する。月はいつも三日月だ。満月にも半月にもならない。暗い世界を、僕は自転車に乗って出かける。西へも東へも南へも北へも。僕の仕事はお弁当屋さんだ。砕石場の人へも、駅員さんへも、役所の人へも、そして町へ買い物に出かけられないおばあちゃんへも、毎日休まずお弁当を届ける。お弁当がお昼時に届くように、僕は暗いうちから(と言