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あさき
2020年6月27日 22:45
私が小学生の頃、箱根には父の会社の保養所があった。私達家族は毎年夏冬の二回、そこを利用していた。保養所は強羅にあった。夏の強羅は、湿った土の匂いがしていた。岐阜にいるときでも、夏に湿った土の匂いがすると、強羅のことを思い出していた。保養所には草の生えただけの庭があり、生け垣で囲われていた。生け垣を抜けて下に降りていくと、なんと、沢があった。ほとんど庭を小川が流れているような状態だ。その感
2020年6月21日 11:56
明日の父の日のことをすっかり忘れていた。今日実家へ行く約束をしているのに。さすがに手ぶらで行くのは気がひける。何がいいだろうか。この時期だとさくらんぼ?それとも肉がいいか?けれどどのみち今から取り寄せたのでは間に合わない。それに、さくらんぼにせよ肉にせよ、それなりに値が張る。馬鹿の一つ覚えのようだが、今回も酒にすることにした。「ごめんください」「はいはい」奥から老店主が出てく
2020年6月18日 00:47
逢魔通りでは、毎日不思議なことが起こる。月曜日は狸が大道芸をし、火曜日は火星人の乗った宇宙船が不時着し、水曜日にはユニコーンが庭の草を食み、木曜日は鶴が恩返しに来た。そして金曜日には……?何が起こるかな。「ひゃー、遅くなっちゃったなー、お母さんに叱られるかな」学校から帰ると、僕はランドセルを放り出して拓人の家へ遊びに行っていた。走りながら公園の時計をチラッと見た。うわ、もう7時近い。道
2020年6月12日 17:48
月子は病弱だった。よく風邪をひいては、奥の六畳間の布団に寝かされていた。兄弟たちが表や庭で遊ぶ声が聞こえて寂しく感じながら、ポツンとひとり、大人しく横になっていた。風邪をひいた時は、食欲のない月子のために、母は桃の缶詰を買ってきて食べさせてくれた。それだけが病気の時の楽しみだった。病気の時は、大好きな本も取り上げられた。だからぼんやりと天井のシミを眺めていた。それは時に西洋人の男性の顔に見
2020年6月8日 20:09
ああ、やっちゃってるなあ。自分で分かる。多分生霊飛ばしてる。実は最近好きな人ができたのだ。ずっと一緒に育ってきた幼なじみ。めっちゃ今更である。同じ幼稚園で出会い、小中学校は学区が同じだから当然同じ、高校は…彼のほうが追いかけてきてくれた。けれど。一年の文化祭のときに、なんと彼は同じクラスの女子と付き合い始めてしまったのだ。もっとも、その頃は、私にも他に付き合っている人がいたのだが…。
2020年6月4日 23:43
ある休みの日の昼時、私はやけに乙女チックな店にいた。店はピンクのギンガムチェックと白と木目が基調になっていた。カントリーテイストというやつか。木製の飾り棚には、ミルクティー色のテディベアや、白いホーローのキャニスターなどが飾られている。テーブルクロスはやっぱりピンクのギンガムチェック。そこに還暦近い男が一人で座っているのだった。ことの始まりは今朝の娘との会話だった。朝食のトーストと
2020年6月1日 21:20
うちの弟が通う高校までは、家から車で30分ほどの距離がある。しかし弟は、ある山を超えるルートだと、自転車で20分で着けるらしいのだ。幼い頃弟は、その山ー鷺山ーでよく遊んでいた。私は茶化して、遊んでいたときにワープゾーンでも見つけたんじゃないかと言っていた。大学の夏休みは長い。弟の学校の新学期が始まってからも、私はブラブラしていた。いつもはだらだらと10時くらいまで寝ているのだが、