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2736KitaQCity

 八幡西区の空には数多くのホバーカーが走っている。目の前には雑然とした街並み。工場の煙突は煙をボンボン吐き出している。ほとんどが錆びた鉄のような臭いとオイルの臭いと豚骨だ。瓦礫の山に、時折屋台。薄汚れたジャンク屋に雑貨屋。だけど時がどれだけ経ってもヌードルは消えなかった。もう体のほとんどを機械化して、あと脳が滅びるだけっていう状態のヒイヒイヒイヒイ……数えるのも面倒臭い俺のじいさんが、これは昔からある食べ物だって言ってた。他のじいさん達は死んじまったのに、このじいさんだけ脳だけ人間のまま生きてる。こうなっちまうと、もう思考が停止すると死ぬってことになる。

 法律上では、もう完全な生物として人類を定義してなくて、ニューロンがどうのこうのとか言ってて、電気信号だけで人権を認めたらコンピューターとなんら区別できなくなるから、最後の砦みたいな定義を残してる。誰もが体を機械化できて、本来の生物の能力をとっくに超えられるようにはなったけど、貧乏人はとにかくヤバイ。メンテナンス費用が出せなくて仕事用に機械化して、特化された仕事についたりするけど、用がなくなったら容赦なく首を切られる。壊れたりなんかしても労災を出さないところがあるから、もうそうなると人生終わる。

 戸畑の方に行けばもっと酷い状態になる。超高層ビルの下に広がるスラム街では壊れかけのブリキロボのようなやつらが沢山いるし、最先端のピカピカのいかにも金持ちの悪趣味で作ったような高性能ロボもいるけれど、そんなものはたった一部で、ほとんどが俺らのように明日どうなるかわからないようなやつばかりだ。

 とにかく、メカは賢くなった。人間の仕事をほとんどこなせるようになったし、アイディアも出せるようになってくると、人手は当然必要なくなり、そいつらはサービスしてくれるのはいいが、肝心の俺らが仕事で稼げなくなるからサービスへの金が払えないって状況で、貧富の差ってところじゃなくなっていた。

 命の価値があるのは、莫大な金を稼ぐ一部の連中だけで、社会保障なるものは全てが破綻しきっていて、一部の金持ちだけにもたらされる特権のようなものに成り下がっていた。保障費用を払えるやつだけが受けられるのだから、当たり前の話だった。

 それじゃあ国家とか、国民とか、命の価値とか、そういうのって何だって話になるんだけど、変な話俺らのほとんどってセックスってのを知らない。脳に直接快楽信号を送れるようになってしまったら、エクスタシーなんて得られまくりだし、生身の人間だったとしても理想通りのセクシャロイドがいるから、手練手管のテクニックを駆使されたら生身の人間なんてまず相手にしなくなる。そうしたら女は子供を産まない。男は女を相手にしない。すべて管理された施設で育てられ生まれる。精子や卵子は、そりゃ俺らのものだけど提供するだけ。

 なんでこういう話をするかって、機械化によって脳を騙せるようになった。そうなるとさっきの話。国家とか国民とか命とか、もう感覚として完全にいかれちまうし、あらゆる学者はサービス三昧をされ、脳が錯覚を起こしたまま全ての事は論じられ、政治家は民主主義の形態を取りながらも、ビックデータからAIが弾き出した最適な解を選び取ればいいだけの話になる。国家運営とは思想の話ではなく「可能性としてよりよいもの」になった。これが民主主義の行き着く先だとは誰しも思わなかったが、結局多数決による「最大多数の最大幸福」ってことはAIに任せたほうがいいってことになってしまったらしい。

 そういうクソみたいな状態になったとしても命は生まれるし、生活していかなきゃいけないし、狭い路地ではドローンは使えないから俺らのようなやつらが必要で、ロボに仕事は取られたと言っても新たな問題から仕事は尽きることはない。

 後、イカレタロボの破壊。これも大事。警察も対処するが、賞金が出ることもある。つまりメカが出れば出るほど膨大なバグ退治に追われることになるわけ。そのバグ退治がプログラムでは、どうにも出来なくなった時、物理的な対処をしなければ街の治安は維持できない。

 昔から、拳銃やら手榴弾やらロケットランチャーやらがあった地域だと聞いている。もちろん完全な登録制になったけど賞金稼ぎには武器が支給される。ドンパチはメカ相手にする。

 俺も武器認証のために右手を機械化することになったけど、それもまたしょうがない。

 薄汚れた空を綺麗な朝日が飾りだしている。

 愛用の特殊改造された電磁パルスマグナムを持って今日が終わる前にスクラップにしなければいけないやつが一体ある。

 そいつを仕留めて、飯にありつこう。

 さて、行くか。


参考写真:GMTfoto @KitaQ

http://kitaq-gmtfoto.blogspot.jp/2015/02/kitaq-philosophy.html

 

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光野朝風
あたたかなお気持ちに、いつも痛み入ります。本当にありがとうございます。