にゃるようににゃる
キジトラ柄の猫が二匹勝山公園敷地内の八坂神社にいる。
一匹は薄くもう一匹は濃い色をしているが、濃い方が兄貴だ。往来する人間たちを気にも留めず歩きながら話をしている。
「兄貴」
「にゃんでい」
「最近よく見かけるやつがいるでしょ?」
「最近? ああ、白に黒のぶちのことかい」
「そうそう」
「そいつがどうしたってんにゃ」
「そいつ、また新しい女はべにゃせてましたぜ」
「ほう。どんな女だい」
「それが茶トラの……」
「茶トラ!? にゃんとしたこと。そいつは俺の知ってる、あの茶トラの女かい」
「え? ええまあ、たぶん。ここらへんで茶トラの女ったらあいつくらいにゃものですから……」
キリっと兄貴は晴天を見据える。弟は足取りの止まった兄貴を見据える。
「ど、どうしたんで?」
気持ちを落ち着かせるために右前足を舐めて頭を掻く。
(落ち着け。落ち着くんだ。最近どうも冷てぇと思ったら、新しい男ができたのかい。あいつ俺だけだって言ってたのに。そんなことなら人間からもらったサバ焼き、あいつにやるんじゃなかった)
弟は突然毛づくろいを念入りに始めた兄貴の様子をじっと眺めていた。
(兄貴は考え事する時や、焦りを隠す時は必ずけづくろいをするんだ)
長い付き合いだから全てお見通しだった。
「あら、この猫かわいい。仲良しなのかな? 柄も似ているし、兄弟なのかもね」
「東京ケーキあげてみようか」
「いいねいいね」
人間の女二人組みがいて二匹を見下ろしていた。兄貴は興味も持たず、動揺した気持ちがまだ収まらず毛づくろいをしている。弟はじっと女たちの瞳を見つめて媚を売ろうと営業体勢に入っている。足元に擦りより、時折瞳をじっと見る。これで人間の女はイチコロだとわかっている。
「キャー。かわいいー!」
手の平に置かれた東京ケーキをパクリと食べる。兄貴の様子を逐一チェックしながら一気に平らげ、差し出された二個目にかかった時、兄貴が気がついた。
無言のまま止まっている。何故お前は餌にありつけているのだと思っているのだろう。
「お腹すいてたのかな。凄い勢いで食べてるよ」
「ねえ、こっちの猫にもあげようよ」
「そうだね」
もう一人の女がしゃがんで東京ケーキを差し出すと弟は咥えてさっと走り去った。
「にゃ、にゃにぃ!」
兄貴が気がついた時にはもう追いつけない距離にいた。食い意地の張ったやろうだ。
走り去りながら弟は思う。花より団子だ。女がいなくても生きていけるが飯がなくては生きていけない。
と、言っても遠くには行かない。必ず境内の敷地を中心にして生活をしている。
結局兄貴もたらふく食べた。
「あー、おなかいっぱいだにゃー」
二匹とも社の賽銭箱の近くで寝そべっている。昼寝にはいい天気だ。弟は食後の毛づくろい。兄貴は石畳の上で眠った。
その兄貴が気にかけていた肝心の女は何をしていたかというと、ぶち猫と会ったばかりだった。
「ねぇ、おいしい食べ物一つも持って来れないなんて、つまんない。おいしい食べ物欲しいなぁ」
甘い声でおねだりする。さすがのプレイボーイも断れず、静々と食べ物を探しに行く。
ここらの猫はのんびりしている。だが、皆生きるために何をすればいいのか心得ているのだ。
参考写真:GMTfoto @KitaQ
http://kitaq-gmtfoto.blogspot.jp/2016/04/blog-post_34.html