孑孑日記⑮ 読んでもないのに読んだ気になっている

 書店に行って背表紙と裏表紙、袖を見て、その本を読んだ気になったことは一度くらいあると思う。特に面白そうなタイトルだと、そうなりやすいと思う。僕だってそうだ、名前が出るのに(中身なんだ?)となるやつが少なくない。
 そんな本のひとつが磯崎憲一郎『鳥獣戯画/我が人生最悪の時』である。これに関しては、「我が人生最悪の時」というタイトルがいい。卑屈でウダウダ考えやがるタイプの僕みたいなのはこんな零落したっぽいタイトルに惹かれてしまう。しかも裏表紙には「単行本未収録の傑作」とあり、なおさらひねくれ者の興味はそそられるには違いない。だがいまだ買っていない。
 あとは『世界システム論』もほんの現物すら見たことがないし、ピンチョンの小説もほとんど同じである。こんな感じで、「読んだことがないくせに読んだつもりになっている本」ってのはあちこちに氾濫している。バイヤールに『読んでいない本について堂々と語る方法』なんて本があるように、まったくありふれた現象のようだ。別に問題ではないし、知らんより知っていたほうがよっぽどいい。だが本を溜めこむ当事者としては、モヤモヤした感情を抱くのである。

追記:『読んでいない本について堂々と語る方法』を学部3年か4年のときに買った。それはいま本棚に納められたままである。

(2023.8.7)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?