近江八幡からの京都リベンジ その3
ヴォーリズ記念館で迎え入れてくれたのは、女性スタッフがひとりだけ。というか、ほかに人の気配はしなかった。玄関を入ると靴を脱ぎ、右手の居間に通された。昨日、ヴォーリズ記念館に電話したとき、見学できるのは居間だけで料金は400円。20分ほどのビデオを見てもらう、とは聞かされていた。どんな居間なのかと思っていたんだけれど、洋室でかなり広く、中央には幅広く長いテーブルがどん、と置いてあり、周囲にはヴォーリズやその奥方に関する説明パネルやらなにやらが、失礼ながら雑然と置かれていた。スタッフの方がいうには、あと2名が予約を入れていて、一緒にビデオを見てもらう、という。と、現れたのはさきほどハイド館ですれ違ったおばさん2人組。やっぱりね。って、なにがやっぱりなんだか。
というわけでおばさん2人とビデオを鑑賞。内容は、ヴォーリズの出自や来日の経緯、満喜子夫人との結婚、教育事業や建築家としての業績、そして近江兄弟社としてメンソレータムを販売、などなど。すべての活動は利益追求ではなく、奉仕活動のためだった、というようなことが描かれていた。
そして、「神の国」と書かれた、どーんと大きい扁額の点が丸になっていて、句点の丸の中に点がある理由などの説明を受けた。さらに、その扁額の下の扉を開けると、向こう側が畳敷きになっているのを見せてもらった。あとは、ちょっと、おばさん2人組(神戸から来たらしい)と雑談したり。未知の人と、なれなれしく話したりできるのは、旅先のよさだよね。
てなわけでヴォーリズ記念館を後にして、次はさっき入らなかったハイド記念館へ。入口にはとくに何もない。でも、ガイドなどには見学できる、と書いてあるのでズカズカと上がろうとしたら右手の事務室のようなところから男性が出てきて「見学ですか?」と。彼が言うには、普段なら付き添って説明するのだけれど、ご時世(コロナのことね)なので、いまは自由に見てもらっている。一部、使用している部屋は入れないが、開いているところ、行けるところはすべて見て回ってよいとのこと。なので勝手に見て回ることになった。
この訪問時は解説をよく読んでいなくて、後から知ったんだけれど、ハイド氏というのはメンソレータム社の創始者らしい。どういう経緯か忘れたけれどヴォーリズはハイド氏と気が合って、日本でのキリスト教的な奉仕活動に共感。うちのメンソレータムの販売権をあげるから、日本で売りなさい、とかなんとか言われたようだ。それでヴォーリズは日本でメンソレータムを製造・販売するようになり、その売上を様々な活動に充てたらしい。さらに、ハイド氏からは多額の寄付を賜ったので、その御礼として新築した学校建築にハイド氏の名前を冠したということのようだ。
そのハイド記念館はむかし風の木造による学校建築で、その一棟はまるまる体育館になっていて、音楽会などにも使用されたとか。面白いのは壇上の背後に窓があって、外が見えること。フツーならバックヤードなのに、不思議な使い方をしている。
ひととおり回って玄関に戻ると、さっきの事務室の男性がやってきて、立ち話。あの体育館は、左側面の壁を取り払うと向こう側にある部屋スペース(職員室になっていた時代もあって、生徒と教師との交流も自然に行われていたらしい)と一体化し、観客席として広く使用できるようになっているという。これは、襖を取り払うと大広間になる日本式の建築構造から影響をうけたのでないか、とか。そんな話にこちらも興味深く反応してあれこれ話したり質問したりしたものだから、いつになっても話が終わらない。そうしたら、事務室から女性がやってきて、「寒いでしょ、中で話したら」なんい言うものだから事務室に招き入れられ、京都四条にあるヴォーリズが設計した中華屋がどうのこうの、そうあれあれ、とか。ヴォーリズの伝記本を何冊か紹介してくれたり、ヴォーリズ記念病院にもいくつか建築物があるので、時間があればぜひに、などと奨められる。とはいえ地図で見ると結構離れているので、徒歩では大変そう。なのであきらめたんだけど、これなんかも、観光案内所でもらったヴォーリズ建築マップには書かれていなかった。あらかじめ分かっていれば予定に組み込めたものを…。
そのうち、別行動で館の中を見学していた神戸のおばさん2人組が会釈して出ていくのがみえて、それでもこちらの話はまだまだつづいて。やっとのこらさで解放してもらったのだった。なんか、ふだん話し足りないところに、いい聞き手が現れた、ってところだったのかな。
さてと。来る途中に、アンドリュース記念館の奥に見えたショップが気になったので戻ってみると、旧八幡郵便局側からも入れて。まちや倶楽部といって、宿泊施設もあるらしい。その奥に、Going Nuts!という、ナッツの専門店があったので、まあいいか、とここから家にお土産を送ることにした。
そのあとに向かったのは、近江兄弟社のメンターム資料館なんだけど、これがなかなか見つからない。まあ、ガイドマップがへたれだったんだけどね。でまあ、近江兄弟社の工場の端の方になんとか見つけはしたんだけれど、なんと休館中。どうやらコロナの影響で閉めているらしい。なんともはや。
ちなみに、近江兄弟社は一度倒産し、メンソレータムの製造販売権はロート製薬に。いっぽう近江兄弟社は再建し、メンタームという名でほぼ同じ内容の製品を販売しているんだとか。メンソレータムは、従来からの女の子。メンタームは男の子のイラストらしい。製造特許が切れているのか、どうなのかは、よくむ分からないけどね。
ところで、そのメンターム資料館のあたりをふらつくと、なんと堀割があって人の乗った船がゆらゆらやってくるではないか。おやおや。近江八幡にはこんなところもあったのか。
と思ったのはこちらの浅はかさ。後から知るんだけど、Webで近江八幡と検索すればでてくる観光スポットはこの八幡掘がトップで、あとは八幡宮、コリーナ近江八幡…などとつづくらしい。一般的には、こっちの方が知られた観光地だったのね。っていうか、ヴォーリズ建築めあての観光客は、そんないないのか。なんてこった。
でもまあいいか。腹も減ったし。で、平日のこんな外れの方にランチやってるところなんてあるのか、と思いきや、あった。まあ、いまから思えば八幡掘に近かったから、フツーの観光客を狙った店だったのかもしれないけど。メニューは、琵琶湖が近いからなのか ひつまぶしがある。でも、高い。安い方の1000円のは、豚肉のうなぎのタレ炒め、というなかなか微妙な雰囲気の、どっちつかずの簡易うなぎ代用食みたいな感じで、貧乏人にはちょうどいいのかな。味はフツーだったよ。脳内にうなぎは浮かばなかったけど。ところで付け合わせの小皿の、色は赤く歯ごたえはぐにょぐにょというのは、何なんだろう? と思っていたんだけど、あとから思うにこれは、近江八幡名物の赤コンニャクだったようだ。なかなか不思議においしかったよ。(2023.04.09)