【こだわり農家見聞録~其の肆~】アグリサポート/水月夜生産組合(群馬県利根郡みなかみ町)
皆さんこんにちは、
アサヒパック広報の小林です!
こちらは、日ごろ弊社製品をご愛顧いただく農家様の”想い”や”こだわり”を取材し、まとめた記事です。題して「こだわり農家見聞録」。
今回はその第四弾。お話を伺ったのはこちらのお客様です。
取材に快く応じてくださり、ありがとうございます!
感動してもらえるお米を届けるために
『はい、一回死にました。』
そう言って笑うのは“お米作りの名人”と称されるアグリサポートの本多義光さん。数年前に倒れ、7分間ほど心臓が止まってしまったのだ。
幸いにも一命をとりとめ、また大きな後遺症もなく、今では元気に現場復帰をされている。本多さんと言えば、独自に編み出した「籾殻燻炭法」を代名詞に、国内の主要な米コンクールで入賞以上の成績を収める、いわば伝説的な存在だ。本記事では、その独自の栽培方法や名人と呼ばれる所以、慕われるお人柄などに可能な限り迫ってみたいと思う。
自ら育てた地域ブランド「水月夜」
良質な水と土、そして一年を通じた昼夜の寒暖差。みなかみ町には上質なお米を育む好条件が揃っている。
このエリアで栽培されたお米の中でも、特に厳しい、いや、「日本一厳しい」基準をクリアした米だけを厳選したブランド、それが「水月夜」だ。
現在、組合に加盟する約30の生産者が目指すのは「食味値86」という数値。これは精米に含まれる「水分・タンパク質・アミロースの割合」と「脂肪の酸化度」から算出される値で、全国的な平均値が65〜75であることを考えるとこの基準の難しさがお分かりいただけると思う。
本多さんはこの水月夜をブランドとして育て上げ、今は顧問として組合を支えている。
本多さんが目指すのは、高品質で美味しく、且つ持続可能なブランドだ。
地元の高級温泉旅館でも提供される水月夜はその美味しさから『お代わりを「お茶碗ではなくお櫃で」とお願いされた』とか、『お米の味に感動した観光客がわざわざ訪ねてきた』など、エピソードにも事欠かない。
こういったブランドとしての一種の「箔」は生産者たちの自信へ、より高い品質への意欲として繋がり、そしてその努力に見合った値札が付くことで、次世代にも継承してくことが可能となる。
ちなみに、本多さんが栽培されたお米は旅館などで提供される業務用のほかに、ご自身の名を冠した「本多義光」と、この「水月夜」の2つの銘で販売されている。
取材時、ちょうど精米と袋詰め作業をされていて、その食味値を一緒に確認させていただいたのだがスコアはなんと「91」。サラッとこんな数値を出してしまうのだから、やはりこの方は只者ではない…。
大切なのは『甘やかさない』こと
このクオリティのお米をコンスタントに栽培できる秘訣はどこにあるのか。
それは、「どうすれば美味しいお米になるのかを何年もかけて研究してきたから」だという。こう、言葉にしてしまうとなんだか拍子抜けしてしまいそうになるが、具体化するならば「主観的な“美味しさ”を各種数値で計測できる機器をいち早く導入し、活用してきたこと」と、言えるだろう。
奥様の一言に背中を押され購入した食味計。
本多さんは『だけど、200万以上する機械を買おうなんてなあ、普通の母ちゃんならなかなか言わないよ』と笑うが、今ではその他に、精米の外観品質を評価する「整粒計(穀粒判別器)」と、飯粒の光沢や粘りに繋がる保水膜を計測する「味度メーター」も所有している。
特に食味値と整粒値については精米の際に袋単位で計測を行い、「品質保証書」として商品に同封する徹底ぶりだ。
本多さんらしいこの誠実な考え方に、筆者も思わず『うんうん』と頷いてしまった。各品評会において高い評価を受けることも、もちろん大変に意義のあることだが、こうして積み重ねてきた「信頼」こそが、そのお米の本当の意味での「付加価値」たり得るのかも知れない。
さて、こうした長年の研究の中で編み出された本多さん流の栽培方法。その勘所についても少しだけお話を伺えたのでここで紹介したい。
籾殻燻炭法
「籾殻燻炭」は籾殻を無酸素に近い状態で蒸し焼きにし、灰になる一歩手前まで炭化させたもの。土壌改良資材として有効で床土 作りの際に鋤き込んで使用する。効果として、酸性に傾いた土壌が中和され有用土壌菌が活発化、結果的に根張りが良く病害にも強い稲が育つという。
※効果については(株)セイコーステラ エコロジア事業部
ホームページより引用
本多さんが代表を務めるアグリサポートではこの籾殻を燻す作業を冬場の仕事として行っている。
その際に出る煙と匂いがなかなかに強烈だそうで、同席してくださった常務取締役の竹内さんも『家に帰ると「今日も焼いてきたん?」って言われますね(笑)』と話してくれた。ちなみに、撒く頻度や量についても質問をしてみたが、そこは”企業秘密”とのこと。
肥料と水を与えすぎない
鍵となるポイントを伺ったところ、中干し以降は『肥料も水もあんまり与えないこと』と教えてくれた。追肥を行うと確かに収量は増えるのだが、その分窒素が多く吸収されてしまい、結果的にタンパク質の含有量が上昇して食味値が落ちるのだとか。また同様の理由で水もあまり入れない。稲刈りの際に「乾いている田んぼ」と「ぬかるんでいる田んぼ」では、前者の方が数値が良かったのだそうだ。
少し雑草が生えているくらいがいい
『多分こんなこと言うのは俺くらいかな?』と笑いながら仰っていたが、余分な窒素を雑草たちが吸収してくれるおかげか、食味値が上がる傾向がみられる、とのこと。『草がちょっと多いな、となれば、多分これは食味がいいから別の乾燥機へ入れよう』と、稲刈りの際にはこれを一つの指標にする場合もあるそうだ。
他の米農家さんから助言を求められた際、『そんなにいつまでも甘やかしちゃダメだよ~』とアドバイスすることがあるそうなのだが、これは、なるほど確かに、土づくりにかなりの労力を割く一方で、中干し以降は稲を少々過酷な環境に晒すという「本多さん流の独自メソッド」を上手く表現した一言だろう。
周りへの恩返しと、衰えない情熱と
今回詳しくお伺いすることはしなかったのだが実は、農家の長男として生まれた本多さんは小学校5年生のころにお父様をご病気で亡くされている。
決して裕福ではなかった幼少時代。
親戚や周りの方々に育ててもらった、という事実に恩を感じ、今度は自分がみんなを助けたい、そんな想いで自身の栽培法の指南や講演会などを快く引き受けているそうだ。
ところで、筆者が初めて本多さんをお見かけしたのは、米・食味鑑定士協会が主催する国際大会だったと記憶している。
懇親会の席で一人、また一人と周りにご友人が集まり、大きな輪が出来上がっていたのがとても印象的で、そういった場での旧友との再会について『それが最高なんです』と、嬉しそうに語ってくれた。
みんなきっと、本多さんのこういった人柄にどこか魅かれているのだろう。
冒頭で触れたとおり本多さんは一時、生死の境を彷徨っている。
このように奇跡的に復帰をされた前と後で、何か心境的な変化があったのか伺ってみたが、どうやら、その情熱はますます熱く燃える一方のようだ。
先述の国際大会においては特別協賛企業である東洋ライス株式会社を通じ、金賞を受賞したお米の中からさらに厳選されたものを「世界最高米」として販売する事業が2016年からスタートした。
本記事を執筆時、国内コンクールでの、いわゆる“グランドスラム”を唯一達成している本多さん。『まだ国際大会で世界最高米まで行ってないんで(笑)』と、名実ともに「世界で一番美味い米」を作るべく、これからも誠実に挑み続ける。
本多さんのこの言葉はきっと、全国で奮闘する米農家、それも特に若い世代へ向けた、超特大のエールだ。
※本記事は弊社発行「こめすけ 47」に掲載の内容を加筆修正し、再構成したものです。
※取材は2023年4月に行いました。