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【アートコラボ米袋プロジェクト】 社会福祉法人「ユウの家」 × アサヒパック


多彩な色使いや執拗なまでのモチーフの反復など、独特な視点で生み出される「障がい者アート」は、その芸術性の高さから近年ますます注目を集めています。

そうして生み出される作品を米袋デザインとして採用し、地域福祉への貢献と、これまでにない商品を作り出す「アートコラボ米袋プロジェクト」。

その第一弾として今回は大阪府堺市の社会福祉法人「ユウの家」の方々にご協力をいただきました。この袋は全国の皆様にご使用いただくことで初めて完成する、一種の「作品」なのです。
 

社会福祉法人 ユウの家
障がいのある子どもたちとその親たちが交流する場として1986年に始まった「ユウの家」。地域で共に生きていくために何ができるかを考え、活動を続けています。大切にしているのは『障がいがあっても地域で自立して、安心して生活できる場を提供する』こと。作業所としてだけではなく、「障がい者アート」の分野でも高い評価を受けています。 

お話を伺った方


代表:平安末子さん / スタッフ:水田利恵さん
アート指導:沢村真仁さん(デザインスタジオ「グレイトサイン」代表) 

2つの作品を米袋デザインとして採用


新商品としてラインナップされたのは、ハッとするような黄色が目を惹くデザインの2種類。

既製品としてお使いいただける「No.106 カラフルごはんだいすき」と、セレクトパック用でオリジナリティーを演出できる「No.993 カラフル稲穂」です。

No.106 カラフルごはんだいすき / No.993 カラフル稲穂


全面にわたって大胆に配置された稲穂が、稔りの喜びをダイナミックに伝えてくれます。せっかくのモチーフを邪魔しないよう、本取り組みの趣旨についてはごく控えめに掲載。QRコードを有効に用いて「ユウの家」のHPへ手軽にアクセスしていただけるように工夫をしています。

今回採用させていただいた作品はもちろん、実際の絵の具を使用して描かれていますので「デジタルデータ」として取り込んだうえでパッケージ化をしている訳ですが、担当者曰く『作品として完成されていて、何も手を加える必要が無かった』と、普段デザインを製作する立場として、少々複雑な表情をしていたのが印象的でした。材質として選んだのは発色の良い「ポリポリ」で、そのデザインをありのままに表現するのにピッタリなチョイスです。


作品の購入に際し「ユウの家」へお支払いをした代金は、利用者さんに還元されます。

良い距離感と、素敵なアート


もともとは任意団体として、障がいを持つ子どもたちの親が集まってスタートした「ユウの家」。B型事業所となった現在では灌水作業や内職など『バリバリ働ける』環境を整えています。

一方、レクリエーションの一環として行うアート活動の分野では、堺市駅に隣接する複合施設「ベルマージュ堺」などでの絵画展を毎年継続して実施しているほか、作品が海を渡り、海外でも高い評価を受けることも多く、現在注目を集めています。

水田 うちは知的障害を持っておられる方が主に働いてらっしゃる場所になるんですが、みなさん自力で通われています。

平安 それぞれ、電車、自転車、バスなど使いながら自力で。

水田 そういうところが少し特徴的だな、と思っています。他の作業所さんでは送迎車を活用されているところが多いんですが、「ユウの家」では自分で来て、自分で帰って、で、たまにコンビニに寄り道したり、社会の人として普通のことをするというか、出来ることは自分で、それを周りが取り上げてしまわないようにしています。そうすると、最初は出来なかった方も、みんなと一緒にやっていると、だんだんと出来るようになってくるんです。練習をして、最初はお母さんと一緒にバスに乗って来るけれど、でも少しずつ自分で乗って帰れるようになったりするんです。


代表の平安さん、そして長年アート活動を支えてきたスタッフの水田さんは「ユウの家」の特徴をそう説明してくれました。手を出しすぎず、必要なところだけをしっかりと支えてあげること。

お話を伺う中で感じたのは、施設の利用者さん(障がいを持たれる方々)との“上手な距離感を保つこと”をとても大切にされているんだな、という点です。
 

作品制作に取り組む利用者の方々

水田 でも本当に“ちょこっと”の手助けで、あとはみんなの力って言うんですかね、周りの先輩たちの力も多分あるんだと思います。

平安 そうやって出来なかったことが、みんな出来るようになるのは、ほんとびっくりしますね。例えば、普段パンや焼き菓子などを作っているんですが、粉から全て利用者さんが作業しています。小麦粉をこねるところから、焼いて、袋詰めして、全部の工程です。もちろん私たちも(補助に)入りますよ?でも、中心的にはやはり利用者さんがされているんです。


この『距離感』はアートの分野でも生かされています。同じ堺市にあるデザインスタジオ「グレイトサイン」の代表で、ユウの家で絵画指導をされている沢村さんは次のように続けます。
 

沢村 そうですね、絵を描くときにも「どこまで口出ししていいのか」っていうのは、悩むところではありました。『こうしよう』って僕の方から言っちゃうと、どんどん誘導してるような感じになってしまって、その子の絵じゃなくなったり、その子の表現じゃなくなってしまうのが怖いので。

「なるべく自由に」とは思うんですが、そこはやっぱり、皆さんに見てもらうための作品なので、(利用者さんが)「ここを描きたい」って思っているポイントを(絵を通して)伝えられるように『そこは丁寧に描こうね』とか『しっかり描こうね』って言うくらいにとどめているかな、と思います。
みんなの「自由な表現」を制限してしまわないようにと、指導しているつもりです。 

アート指導をされる沢村さん


こうして完成した作品は年に1度の絵画展で一般にお披露目されます。残念ながらここ数年はコロナ禍により規模を縮小しての開催でしたが、自分たちの描いたアートが立派な会場で実際に展示されるのは、利用者の皆さんにとってもやっぱり『嬉しい』イベントのひとつです。

作品はそれを気に入った方に購入されることもあるそうですが、今回の私たちのように「商品パッケージで使用する」という目的や、「お米」というテーマを事前に指定しての依頼はほとんど初めてだったとのこと。実は利用者さんの中でも、「何を描くか」という題材選びの部分に難しさを感じることが多いそうなのです。
 

水田 今回のようにテーマをいただいたのは、(作品を描くうえで)すごくいいきっかけになりました。なかなか、何を描いたらいいのかっていうのは、利用者さんたちは決めるのが難しくて…。それで『こういうの描いてみようか?』ってテーマを貰えて、で、それがもしかしたら商品になるかも知れないっていうことで、少しワクワクしていたところもありました。(笑)

沢村 期待感もありましたし、嬉しそうでした。ただ実際は、ある程度お願い出来る利用者さんって言うのはどうしても限られていて、『それ苦手』とか『なんか難しそう』って感じたら、パッて辞めちゃって、違うものとか、自分の好きなものを描き始めちゃうんですよね。(テーマである「お米」の)写真を見てもらって『こんなん描いてみいひん?』って聞いた時に、それを描いてくれる方っていうのは本当に“楽しんで”描いてくれてますし、“もっと丁寧に描きたい”っていう意欲が出ている気がしますね。」

今回採用をされた作品2点


描くときの「楽しい」や「ワクワク」といった素直な感情がきっと、その作品を『素敵だなあ』としみじみ感じさせてくれるのでしょう。今回実際の製品として形に出来たことを、私たちも大変うれしく思っています。

新たなパッケージデザインの切り口として 


とは言え、この取り組みで私たちが目指したのは、あくまでも「対等」で、かつ「再現可能」な新しいビジネスモデルです。福祉そのものを声高に強調した「支援活動」が目的ではありません。そのうえで、これが今後、全国へと広がっていくことにも大いに期待をしています。

採用となった作品は“パッケージに使用する”という明確な目的のもと、「お米」というテーマで複数案を新規に制作いただき、その中から本当に「良い」と思ったものだけを購入しました。この一連のプロセスは、ごく一般的な「デザインの外注」と何ら変わりありません。そして事実、これまでになかったアプローチの製品パッケージは、他とは一線を画す大変魅力的なものとなりました。あえて端的に表現するなら「売り場でとても目立つ袋」と言えるでしょう。


ご存じのとおり昨今、商品を購入する時「それを買う理由」を考える機会が少しずつ増えてきています。

この袋はあくまでもその「デザイン性」に軸足を置いたものですが、それが「障がい者アート作品」であり、商品の購入が結果として、福祉施設や活動を応援できるということは、そこに「理由」をひとつ付与できるものとなり得ます。加えて、そのパッケージがもし仮に「地元の施設で描かれた作品」を使用していたとしたら、その意味合いはきっともう一回り大きくなってくれるはずです。

皆様のお近くにもそんな「素敵なデザイナーさん」はいらっしゃるでしょうか?描いた作品が商品パッケージとして世に出ることはきっと、その“クリエイター”の方々にとっても「生きがい」と呼べるような、大きな意味として繋がってくれると考えます。ですがそれは、純粋に『その作品を素敵だと思えたから』であってほしいとも、強く思うのです。
 

完成した袋を持参して報告に伺いました

※本記事は弊社発行の総合カタログVOL.5に掲載の内容を加筆修正し、再構成したものです。
※取材は2022年9月に行いました。