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聖剣伝説における世界観を1つの側面から描いた物語『聖剣伝説 VISIONS of MANA』プレイレポート


聖剣伝説 VISIONS of MANA』は、世界存続のためにマナの樹にその魂を捧げる御子と、その御子に寄り添う魂の守り人の旅路を描くアクションRPGだ。NetEase Games傘下の日本のゲーム開発スタジオ"桜花スタジオ"が手掛ける。

本作は、過去作のリメイクやソーシャルゲームを除けば、実に17年ぶりとなる『聖剣伝説』シリーズの新作。ゲームシステムやメカニクスは高水準にまとまっていて、プレイフィールも良く、本作が最初の聖剣伝説というプレイヤーにとっては間口が広いものと言えそうだ。

スクウェア・エニックスは『聖剣伝説』のIP(知的財産)を保有しており、シリーズ作品の中にはスクウェア・エニックス内の開発部が直接手掛けているタイトルもあるが、本作に関してはあくまでパブリッシャーとして販売を担当している。

ゲームシステム

本作の舞台は、世界を支える「マナの樹(いわゆる世界樹)」が存在するイルージャ島を中心に、3つの大陸と複数の島とで構成された世界。シームレスに移動可能なオープンワールドではなく、それぞれが大小のエリアに分かれていて、人々の住む街や村、比較的広めなフィールド、ダンジョンに相当する場所も存在する。

最序盤となるゲーム開始時点からファストトラベルが使用でき、いつでも自由にエリア内の所定のポイントまで瞬間的に移動することが可能。別のエリアへのファストトラベルは、セーブポイントを兼ねた「龍脈」を経由する必要があったり、海を越えてのファストトラベルはできないといった制約はあるが、ノーコストでタイミングも選ばないため使い勝手はとても良い。

一方で、探索要素は薄め。というのも、マップ上にはあらかじめ表示された「◎」マークがあり、これは先述の龍脈や宝箱などを含む「その時点でアクセス可能なオブジェクトやギミック」を示している。ストーリー上の目的地も「★」マークで常に表示されており、ルートがある程度固定されてしまうからだ。

もちろん、あくまで薄めであって探索要素が皆無というわけではない。

マップには表示されない交換用アイテムや、遭遇を重ねれば良いことがあるサボテン君の存在などがあるので、それらを意識して集めようと思えば隈なく走り回ることにはなるのだが、いずれにしても先述のマークはオプションでON/OFFを選択できると良かったかもしれない。

戦闘システム

戦闘は、フィールド上のモンスターにこちらからアクションを仕掛けるか、イベントに沿った強制的な形かのいずれかで発生。アクションRPGなので、攻撃や回避行動、技や魔法はインタラクティブにプレイヤーが操作する。

旅の仲間は5人だが、戦闘に出られるのは3人まで。ストーリー進行に応じてクラスチェンジが可能なので、クラス性能や習得可能なアビリティから役割を考えてパーティ編成して挑む形だ。

難易度設定は複数用意されているが、戦闘そのものは高い戦略性は要求されるようなことはなく(ハード以上なら属性による相性を気にしたほうがいい程度)、総じてわかりやすくカジュアルに戦うことができる。

シンプル過ぎるという意見もあるかと思うが、昨今のゲームにおける難易度のベースラインが上がってきている中で、気負うことなく手軽に遊べることは素直に評価したい。『聖剣伝説』というシリーズ作品に、高度な戦闘を求めていないという点も付け加えておこう。

ストーリー

ゲームにおけるシナリオには「主人公たちの心情に共感することでプレイヤーが没入感を得られるタイプ」と、作中の文化や思考体系が現実とは異なり「共感はできないが、1つの物語として楽しめるタイプ」がある。本作は明確に後者であり、おそらくプレイヤーの賛否を分けるのはここだ。

本作の世界観は、世界存続のために「火・風・水・土・木・光・闇・月」の各属性を司る土地に根ざす人々から、4年に一度、マナの女神に仕えるフェアリーとその地の大精霊によってそれぞれ1人ずつ「御子」が選ばれ、その魂を世界の中心たる「マナの樹」に捧げるというサイクルによって成り立っている。

マナとは世界を構成する自然の力そのもの。もし魂が捧げられなければマナの循環が途切れ、その土地は不毛の大地となり、やがては世界全土にも影響が及ぶ事態となってしまう。

この「世界のために誰かが犠牲になる」という構図は、作中世界における摂理であって、大多数がそこに疑問を抱かず受け入れている。家族や恋人の親愛の情をも超越して葛藤すらしない。もし異分子がいたとしても、強固な同調圧力によって是正させようという力さえ働くのだ。

そうした異世界の常識や価値観に対して、プレイヤーが相容れない思いを抱くのは至極当然なこと。主人公たちはあくまで御子と守り人であろうとするため、むしろ、世界の摂理に反する思考を持った本作の"敵役たち"の方にこそ共感できてしまうほど。

▲「御子に選ばれるのが尊い?ハッ、ワシなら世界のために死ぬなんてごめんだな!」

詳細は伏せるが、ストーリー上、主人公たちを含む作中の登場人物たちの行動や言動がダブルスタンダードとしか映らないものがあり、思わずツッコミたくなることが多々あるのだが……

その世界における唯一の宗教と呼べるものであり、狂信的とさえ言えるマナ信仰が、他とは一線を画しているのだと考えれば納得できるかもしれない。

しかし、思い出してほしい。初代『聖剣伝説』は「世界のために誰かが犠牲になる」結末が描かれていた。筆者を含む多くのプレイヤーが、やり場のない喪失感のようなものを味わった。それは結果的にそうであっただけで、また、それを犠牲と呼ぶかどうかはものの見方によるところかもしれないが。

筆者にとっては、本作はまぎれもなく『聖剣伝説』であり、マナの樹と聖剣にまつわる物語を丁寧に描いた作品だと感じている。倫理的に最後まで共感や感情移入はできなかったが、1つの異世界の物語として楽しむことができたのだ。

総評

総じて『聖剣伝説 VISIONS of MANA』は、シリーズ新作として『聖剣伝説』をリスペクトし、その世界観の1つの側面を描いた作品であるという印象を持っている。

万人受けしないストーリー展開への違和感や、カジュアルな戦闘システムに物足りなさを感じるプレイヤーもいるだろうなとは思うものの、今後もシリーズが続いていく上で足枷にはならないだろう。

これから新たに『聖剣伝説』を触れようとするプレイヤーの入口の1つとして機能する、そんな作品ではないだろうか。


開発:桜花スタジオ
販売:Square Enix
配信日:2024年8月30日 / 日本語有り

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