小さな殺人者
「夢亜(むあ)!残さず食べなさいって、いつも言ってるでしょう」
小学校四年生の夢亜が茶碗をテーブルの上に置くや否や、母親で専業主婦の川北佳緒里が箸と皿を置いて、怒鳴り声を上げた。
「ゴメンナサイ」
夢亜は怯えて震えながら消え入るような声で謝った。
夢亜は今晩のおかずの青椒肉絲(チンジャオロース)が嫌いだった。
吐き気がするほど嫌いなので、後でどうなるかわかっていながらも
食べられなかったのだ。
「まあいいじゃないか、佳緒里」
父親で大蔵官僚の公平が読んでいた新聞から目を離して、佳緒里に
目をやった。そしてそれから夢亜に視線を移して、意地悪そうに
声を出した。
「なあ、夢亜は厳しく指導してほしいんだよなあ」
公平が不気味な薄笑いを浮かべながら夢亜に告げた。
「そうよ、夢亜は指導が大好きなんだもの」
姉で有名私立中学一年の麗華が茶碗と箸を持ちながら
口を挟んだ。
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