わたしはだぁ~れ?
「ねぇ、友香」
瀬名明日香が麦わら帽子をまぶかにかぶりなおした。
「なに」
「アッついねぇ~」
「夏だもん」
「ねぇ、友香」
急に明日香の声が暗黒からの使者のように変わった。
「アンタの人生を今日から頂くからね。恋人も生活も
なにもかも」
明日香は口から妖気のようなものを発している。
「よく、話が見えてこないんだけど」
友香がキョトンとした顔をしていると、
「もう、いいの。忘れて」
明日香が帽子を被りなおした。
いつもの、明日香だ。
友香は安心した。
「耳なし芳一」
麦わら帽子を脱いだ明日香がボソリとつぶやいた。
「えっ!?」
友香が聞き返す。
「耳なし芳一は耳にだけお経を描いていなかったから、
耳を引き千切られたの」
明日香が鬼のような形相でそう話した。
「だっ、だから」
「アンタは人生をほったらかしにして、毎日遊び歩いてた。
だからすべてをわたしによって剥ぎ取られるのよ」
「そんなムチャクチャな」
私は友香になり、友香は消えてしまった。