紙力(かみじから)
「おまえはいつまでたっても
出世する見込みがみえないなあ」
部長のナガサワにズームでそういわれたとき
アジマは悔しさで一杯になった。
オレはホントウはこんなもんじゃない、こんなもんじゃない
と何度心の中で繰り返してみても、それは虚しく
虚空に消えて行くだけだった。
「まあ、今度飲みに行くか。どうせオマエ
金がないんだろうから、オレ様が
おごってやるよ」
(だれがオマエとなんか飲みに行くもんか。モニター
の画面越しだけで十分だよ)
アジマは心の中でそうつぶやいた。
モニターが切れた
アジマがモニターに向かって舌を出した。
アジマは中堅のアパレルメーカー(サウス)に
二流大学を出てから勤め始めた。
そして、それ以来18年間、平社員だった。
同期の仲間はみな、課長や係長になっていくのに
アジマだけがひとり取り残されたような
かたちになっていた。
最初のうちこそ今に見ていろと思っていたが、
いまでは悔しさを押し殺して毎日を
やり過ごすだけの人間になっていた。