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【エッセイ】ちょっと足りない

 上司がとなりで、同僚と話をしている。
 聞き耳をたてるわけでもなく、わたしはその話を聞いている。(耳に入ってくる)
 どんな内容だったか忘れたが、上司がこう相づちを打った。
「うん、ちんぷんかんだよね」
 ……ん?
 わたしは自分の耳を疑ったが、誰も指摘する様子がない。上司は重ねていった。
「それだとちんぷんかんだよ」
 みんなは、「ぷん」ひとつが足りないことに違和感を感じないのかな、と辺りを見てみたが、どう思っているのか読み取れる表情をしている者はいなかった。
 たぶん「ちんぷんかんぷん」と「とんちんかん」が混ざったんだろう。そのように自分を納得させてはみたが、どうにも気になって仕方ない。
 もしかしたら、上司はふだんから「ちんぷんかん」という使い方をしてるのかもしれない。そうだとしたら、指摘するのも失礼だ。いや、わたしが知らないだけで、ちんぷんかんという言葉は存在するのかもしれない。
 それほど頻繁に使う言葉ではないので、そっとしておくことにした。この違和感は、自分の中だけにしまっておくことにする。
 しかし考えれば考えるほど、ちんぷんかんがくせになってきた。次に「ちんぷんかんぷん」と口にする機会があったら、「ちんぷんかん」と言ってしまうかもしれない。

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朝日 ね子
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