節税としての経営セーフティ共済のすすめ
「経営セーフティ共済」をご存じでしょうか。「経営セーフティ共済」は、中小企業倒産防止共済制度の愛称であり、独立行政法人中小企業基盤整備機構によって運営されています。
パンフレットには、「経営セーフティ共済は、取引先事業者が倒産し、売掛金債権等が回収困難になった場合に、貸付が受けられる共済制度です。『もしも』のときの資金調達手段として当面の資金繰りをバックアップします。」と記載されています。
これだけを読むと、取引先からの売掛金の回収が難しくなった時に資金繰り面で助かる制度と考えがちですが、短期的なメリットとしては、ずばり、「節税」です。
経営セーフティ共済の概要
国が全額出資している「独立行政法人中小企業基盤整備機構」が運営
1年以上事業を行っている一定の事業者が加入可能
掛金月額は、毎月5千円から20万円の範囲内で自由に選択
掛金額の増減は可能(減額には一定の要件が必要)
①事業規模の縮小又は②業績の悪化による減額申請が必要
掛金総額800万円まで積み立て可能
掛金は、税法上、損金(法人)又は必要経費(個人)算入可能
取引先の売掛債権回収が困難な際に借り入れ可能
解約手当金の範囲内で一時的に借り入れ可能
任意解約と解約手当金
解約には、任意解約、機構解約、みなし解約があります。それぞれによって解約手当金の額は異なりますが、12か月以上掛金を納付していれば、任意解約の場合でも掛金総額の80%以上の解約手当金を受け取ることができます。
40か月以上掛金を納付していれば、任意解約の場合でも掛金総額の100%が支給されることになります。つまり、加入後、40か月を過ぎるといつでも掛金総額100%の返戻を受けられることになります。デメリットとしては、掛金納付月数が11か月以下の解約の場合は、全く返戻されないということです。
なぜ節税になるのか
掛金が、税法上、損金(法人)又は必要経費(個人)になりますので、掛金の上限である800万円まで所得を減少させることができます。しかも、減少分は一定の条件のもとに積み立てられていることになりますので、将来的には全額返戻される可能性があるということになります。
経費に算入できるにもかかわらず、将来返戻の可能性があれば、所得を減少させつつ、貯蓄をできるようなものになります。
ただし、解約手当金は、税法上、益金(法人)又は雑収入(個人)になりますので、所得を繰延べ(将来に先延ばし)する効果があるということになり、単に、銀行への貯蓄のようなものではありません。
節税の具体例(個人事業者)
コンサルタント業の個人事業者の場合(令和元年分)
本人45歳、扶養家族は配偶者45歳(無職)と小学生の子供1人の場合(大阪市在住)
【経営セーフティ共済未加入のケース】
事業収入 8,000,000円
必要経費 3,500,000円
青色申告特別控除 650,000円
事業所得 3,850,000円
所得控除合計 1,250,000円
課税所得 2,600,000円
税額 162,500円
復興所得税 3,412円
納付税額 165,900円
この他、住民税として272,800円、事業税80,000円、国民健康保険料等656,541円、合計1,175,241円の税・社会保険の支払いが生じます。
上記の場合の事業所得に対する税・社会保険の負担率としましては、約30.5%になります。課税所得を経営セーフティ共済の加入により減らすことによって、将来積立金全額の返戻の可能性を残しながら、税・社会保険の負担を減らすことができます。
【経営セーフティ共済加入(月額100,000円)のケース】
事業収入 8,000,000円
必要経費 4,700,000円
青色申告特別控除 650,000円
事業所得 2,650,000円
所得控除合計 1,250,000円
課税所得 1,400,000円
税額 70,000円
復興所得税 1,470円
納付税額 71,400円
この他、住民税として150,300円、事業税20,000円、国民健康保険料等506,631円、合計748,331円の税・社会保険の支払いが生じます。
経営セーフティ共済加入前と比べ、426,910円の税・社会保険の負担減少となります。
経営セーフティ共済の掛金が将来全額返戻されることを前提とすれば、年間120万円の掛け金を積み立てることによって、年間426,910円の税・社会保険の負担減少となります。これだけの負担を減少することができれば、生活を切り詰め、貯金を切り崩すことによって、掛金を捻出することに大きな意味はあるような気がします。
計算結果を見ると、税金よりも社会保険料の負担が非常に大きいことが分かりますね。大阪市の健康保険料率は次のとおりとなります。
国民健康保険料、住民税などの簡単に計算できるウェブサイトがありますので、参考にしてくだい。
教育費用の減少について
課税所得の減少は、税・社会保険の負担の減少の他、幼児の保育料、小学生の学童保育利用料、高校生の教育費支援額、大学生の入学金・授業料の減額、給付型奨学金の支給額など多くの教育関連支出とリンクしており、これらの負担の減少につながる可能性があります。
最後に
改めて計算してみると、税・社会保険料の負担の大きさが分かります。社会保険料については、個人事業者の方は会社負担がありませんので、負担感は相当大きくなりますね。その反面、個人事業者ならではの意思決定の速さや節税策の早期の対応など、組織と異なり小回りが利くということは最大のメリットですので、事業運営のみでなく、節税策においてもこのメリットを確実に利用するべきだと思います。