芋虫との共同生活 〜行方を晦ますのはやめて〜
2023年8月27日 毎日新聞 余録
https://mainichi.jp/articles/20230827/ddm/001/070/124000c
私は「風の谷のナウシカ」は見ていないが、
「虫愛づる姫君」には馴染みがある。
「人々の、花、蝶やとめづるこそ、はかなくあやしけれ」が「あやし」の例文として古典単語帳に載っていた気がするのだ。
風変わりな作品だと当時から印象に残っていた。
今回このお題をテーマに選んだのは少し「虫」というキーワードにドキッとするところがあったからかもしれない。
友人の結婚式のために帰省し、久しぶりに自宅に戻ったら一匹の芋虫が部屋の中をそれはもう伸び伸びと闊歩していた。
近くに森があるわけでもない。独り言はあまり言わない方だと自負しているが、驚いてつい芋虫に「どこから来たと?!」と博多弁で話しかけてしまった。
「蛹になるまでは家に置いてあげよう」としばらく紙コップに入れてキャベツをあげたりフンを片付けたりしていたが、土日に家を開けて戻ってくるとなんと脱走しており、唐突に別れを迎えた。
キャベツを無限に供給してもらえる安寧の地(紙コップ)を飛び出してまで、一体どこに行ったっていうのよ!と恋人に別れを告げられた人のような気持ちになった。
再会したのは一昨日。蛾になって元気に部屋の中を飛んでいた。蛾が家にいるのは嫌でも、芋虫時代は可愛がっていたため、殺すことはできなかった。
捕まえて外に出してあげたかったが、会社に行って戻ってくると、またまや姿をくらませてしまっていた。
次は一体どんなサプライズが待っているというんだろう。流石に卵を産むのだけは勘弁してほしいと、蛾が無性生殖か有性生殖か調べたが、さすがに無性生殖ではなさそうでほっとしている。
このエピソードを、虫嫌いの国語教諭の同級生に話したとしたら、「現代版虫愛づる姫君じゃん!止めてよ!」と言われていたかもしれない。
誰かには知ってほしかったのでここに記すが、いも虫が苦手な人だったらごめんなさい。(今は蛾だが…。)