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やぎさんゆうびんの謎


こないだ花さか天使テンテン君を読んでいた時に、なんとなくカバーを外したら落書きが書いてありました。

「オーレーはジャイ子~ たーだのデブ~~」

書いた当時小学生だったであろう兄に一体何があったのでしょうか。

あさひです。

突然ですが、やぎさんゆうびんという歌の歌詞をご存じだろうか。

しろやぎさんから おてがみ ついた
くろやぎさんたら よまずに たべた
しかたがないので おてがみ かいた
さっきの てがみの ごようじ なあに

くろやぎさんから おてがみ ついた
しろやぎさんたら よまずに たべた
しかたがないので おてがみ かいた
さっきの てがみの ごようじ なあに

この歌の歌詞はこれの繰り返しで、終わりがない。そこで誰しもが考える疑問があるはずだ。 
・最初の手紙の内容
・何故手紙を食べたのか
・2匹の関係はなんなのか

様々な考察がされているが、私は恋人説を推そうと思う。今日ホワイトデーだし。3時間程度真剣に考えていたら、そうとしか思えない背景が見えてしまったから。

まず、この2匹には会えない理由があるor会える距離にいない。
連絡手段は手紙 
差出人を解った上で食べている
返事を送らなきゃならない理由がある

それを配慮して私が考えた彼らの物語はこれだ。

かつて黒やぎは毛色の違いから差別を受けていた。勿論この歌に出てくる黒やぎさん一家も例外ではなかった。
黒やぎさんが宿ったのをきっかけに、「未来を生きる子供達にいい世界を残したい」と思った黒やぎさんのお父さんは、差別を執拗に訴えついに白やぎ軍に殺されてしまったのである。 黒やぎさんが産まれる前に。

黒やぎさんが大人になった頃には、父親の願いが叶ったのか世界は少しずつ変わっていっていた。 いくら父が黒やぎ界の英雄と称えられても、残された黒やぎさんは母子家庭で決していい暮らしではなかった。働ける年になった頃には母の事も考え、1匹都市に移住をして出稼ぎに出るようになる。

そこで、もう1匹の登場人物"白やぎさん"と出会う。2匹すぐに惹かれあったが、黒やぎさんは一歩踏み出せずにいた。
「私の親族は白やぎを呪ってる。私も白やぎを憎しみ呪わなきゃいけない。父の仇よ。あなたと出会って、あなたみたいな白やぎもいる事を知った。それでも私は、あなたとは父の残してくれた未来を生きられない。さようなら。」

ある日、黒やぎさんが白やぎさんに書いた手紙である。 黒やぎさんの白やぎさんへの溢れるほどの愛は、涙で滲んだ文字が表していた。

ーー好きになったらいけない。恨まなくちゃ、憎まなくちゃいけない。英雄に残された私の家族の為に。
わかっていても涙が止まることはなかった。

すぐに返事が来た。 白やぎさんが家に来たのだ。

「ごめん、手紙食べちゃった。さっきの手紙のご用事なあに?」

手紙を読み、全てをわかった上で微笑みながらそう言った白やぎさんのその優しさ触れて、黒やぎさんはまた泣いた。

それから3年が経ち、2匹の関係は未だ順調だった。

「次の休みに両親と食事会がある……きみにも来てほしい」
「……私ね、父の望んだのは平等な未来であって憎しみ合う世界じゃないって、今ならそう思えるの」
黒やぎさんは微笑み、白やぎさんに寄り添う。
「次の次の休みは私の母と食事会をしましょうね」

2匹はまた一歩未来へ歩き出した。

食事会当日。挨拶を済ませた後、白やぎさんのお父さんが「体調が悪い」と言い出し食事会は延期になった。
「私は1匹で帰るから傍にいてあげて」と言う黒やぎさんに甘え、白やぎさんは父のもとへ戻る。

「父さん、どうしたんだよ。さっきまで元気だったじゃないか。」 


「黒やぎさんは、だめだ」 


「急に何を言い出すんだよ。まさか黒やぎだからか?」

お父さんは何も言わない。

「そりゃ父さんは昔は軍にいたけど、平等な世界をつくるんだって努力をしてきたじゃないか。」 


「……そうじゃないんだよ。黒やぎさんのお父上は英雄だね?」 


「だからなんだよ。黒やぎさんは、英雄が白やぎ軍に殺された事も、父さんが軍にいたことはわかってるさ。でもそれを乗り越えて」 


「違うんだ」 


「何が違うんだよ」 


「英雄をこの手で殺めたのは父さんなんだ」 


「何を言ってるの」 


「上の命令だった。でも事実なんだ。この手で、殺めた。お前は黒やぎさんから父親を永遠に奪った仇の息子だ。黒やぎさんがそれを知ったらどうなる?」

白やぎさんは言葉を失った。


ーー彼女は誰よりも強く優しい子だ。周囲への感謝も忘れず……そうだ。だからこそあの子は僕から離れない。事実を知っても、離れないで隣で微笑むだろう。
でもきっと目が合う度、手が触れる度、傷付くだろう。人知れず泣くだろう。 一緒にいてはいけない。もう一生会う事はない。彼女を傷付けたくない。

ーーー

もう一週間、白やぎさんが帰らない。
白やぎさんを待ち続ける黒やぎさん。そこに一通の手紙が届いた。

”白やぎさんからお手紙着いた ”

「さようなら。」


黒やぎさんはすぐに意味がわかった。 黒やぎさんは全て知っていた。憎むべき仇の息子が誰なのかを知らないはずがなかった。

ーー彼が知ってしまったからには、きっと目が合う度、手が触れる度、彼は自分を責めるだろう。人知れず苦しむだろう。
一緒にいてはいけない。もう一生会う事はない。彼を苦しめたくない。

黒やぎさんは全て受け入れ、愛の言葉を手紙に綴った。

「読まずに食べちゃった。さっきの手紙のご用事なあに?」

ーーー

それ以来、2匹が会う事はなかった。白やぎさんも手紙を食べて2匹の"愛の言葉"を綴った文通は幾度もなく続いた。


でも、物事にはいつか終わりが来る。

歌にも、命にも。


ある日。黒やぎさんのお母さんが、黒やぎさんの家に泊まりにきた。

黒やぎさんが「仕事で帰りが遅れる」と言うので、先に部屋に入る事にした。殺風景で、日用品以外は仕事の資料しか置いてないような部屋。「全く。女の子なのに」と呆れながらも、机にあった散らばった資料をまとめていると、切手の貼った封筒が出てきた。

宛先を見て、鼓動が高鳴った。

中に入った紙を取り出す手が震えた。


「白やぎさんへ

 お手紙食べちゃった。さっきの手紙のご用事なぁに?

             黒やぎより」


黒くしなやかな毛並みが逆立つ。


「……私から、娘まで奪うというの?」



黒やぎさんのお母さんは便箋に毒を塗った。その手はもう震えてはいなかった。

黒やぎさんが帰ってくると「おかえりなさい」と笑顔で迎えた。


朝、黒やぎさんの声で起きる。

「こんなところにあったのね!」

「おはよう黒やぎ。で、朝から何よ」

「ううん、何でもないの!昨日仕事前に出そうと思ってた手紙が鞄に入ってなくて探してたの」

からだがドクンと脈打ち、ツンとした緊張が走ったが、お母さんは何も言わなかった。

黒やぎさんは宝物を見つけた子供のように笑い、繊細なガラスに触れるように優しく手紙を指で撫で、大切に大切に鞄にしまった。



その手紙を最後に、白やぎさんから手紙が来る事はなかった。

黒やぎさんはただただ待ち続けた。来るはずがないとも知らずに、滑稽に、長い年月待ち続けた。何を待っているのかも思い出せなくなった頃、優しく微笑みながら息を引き取った。


で、これなんの話?あくまでもヤギだからね、こいつら。

せーの、、シュールか!!



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