舌下

彼はいつも舌を青く染めながら
「これが無いと眠れないんだ」と笑う
彼はいつもヘッドフォンをしていた
「頭の中の声がうるさくて」と云う
彼はいつも夜中に飛び起きて
「中学時代の悪夢を見た」と呟く

その度に僕は言葉に詰まって
ただ黙って本を読んでいた

そういえば彼のことをあまり知らない
Twitterで出会った 3,4個年上で
きれいな音楽と小説が好きで
精神薬に溺れている 僕も同じだ
そのくらいの共通点が寧ろ心地いい

彼は僕を「じゅん」と呼ぶ
僕のアカウント名が「j」だからだろうな
きっとジョーカーがいちばん強いから
そのあとで 世間はババ抜きだと知った

彼のTwitterアカウントでは
自分はアセクシャルだと呟いていた
彼の紡ぐ言葉たちは
そんな自分を卑下する事ばかりだ

そんなツイートに嬉しくなった
ぼくって性格悪いかな

彼の書く物語では よく人が死ぬ
突飛なはずなのに文体はきれいで
ありありと情景が浮かんでくる
僕はそれを「面白い」と評価した

いつか珍しく 昔の話をしてくれた
「以前は関西で暮らしていた」
「過去に一作だけ出版したことがある」
彼の言葉に方言なんてどこにもない
もうこっちへ来て随分経つらしい

そんな話を聞いた数日後
彼のアカウントが消されていた
それだけが唯一の繋がりだった
ねこみたいに突然に
ふらりと僕の前から姿を消した

最後のDMは「嘘をついていた」
彼はアセクシャルではないらしい
中学の時に初恋もあったらしい
そうして僕の容姿が
「その子に似ていたから」と残して

いなくなった彼を思う 思う 想う
想って歌うこれは まさに絶えない歌だ
どこにでもある捨て垢の「A」
なんて名前だったけど僕の人生では
真っ先に出てくる「友人A」でした。

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