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童話『クリスマスプレゼント』

今回、海見みみみさん主催の第2回SSFに参加させていただくにあたり、
ずいぶん昔に書いた作品『クリスマスプレゼント』をリライトしました♪
こちらはかつて”ラジオ童話”としてUPしていたものです。
…って、日付見てびっくり! もう2年半以上も経つのか~!?(^▽^;)

音声のみはこちら♪

7分半ほどの作品です。
音声編集を始めたばかりの頃で、あらためて聴くとあちこち気になる箇所もありますが(汗)、もしよかったら、聴きながら読んでみていただけると、より世界観を味わっていただける…かもしれません☆彡
(文字数の調整の関係で、音声と本編の文章があちこち異なっています。ご了承くださいm(__)m)

☆:;;::;;:*:;;::;;:↓ここから本編↓☆:;;::;;:*:;;::;;:


 ドラゴンはもうずっと前から、地上にいるあの娘“リリー”のことが大好きでした。
 艶のある栗色の長い髪、ガラス玉のように澄んだ瞳、時折見せるはにかんだ笑顔は天使のよう。
「なんて美しいんだろう。一度でいいから、彼女に触れてみたいものだ」
 けれども、このザラザラした鱗やゴワゴワした髭の生えた体では、とてもリリーの前に姿を現すことはできません。ましてや彼女と結ばれることなど、叶うはずもありません。
 来る日も来る日も、ドラゴンはリリーを見つめ続けているだけでした。

 そんなある日のこと。気まぐれな魔法使いがドラゴンに声をかけます。
「クリスマスまでなら、あんたを人間の姿にしてやろうか?」
「本当かい!?」
 ドラゴンは飛び上がって喜びました。
 季節は秋の終わり。クリスマスまで一ヶ月しかありません。けれど、それでもよかったのです。あの栗色の髪や澄んだ瞳を、間近で見ることができるのですから。
「十二月二十四日の真夜中の鐘が鳴る頃には、元の姿に戻るからね。気を付けるんだよ」
「わかったよ。ありがとう」
 ドラゴンは望みどおり、ハンサムな青年に姿を変えてもらいました。
 そして運よく、リリーと同じアパートに住むことになったのです。

 二人が恋人同士になるのに、さほど時間はかかりませんでした。引っ越しの挨拶をしに部屋を訪ねた時にはもう、彼女の瞳はドラゴンに恋をしていたのです。
 ドラゴンは幸せでした。一秒さえも惜しんで、リリーの傍にいようと努力しました。
 そしていつしか、離れることができないくらい、彼女を愛してしまっていたのです。

 とうとうイヴの夜がやってきました。
 ドラゴンはリリーを部屋に招き入れ、思い切って本当のことを打ち明けます。今の自分は仮の姿で、本当はドラゴンなのだと。そして、元の姿に戻るのが今夜十二時なのだということも。
「嘘よ! そんなおとぎ話みたいなこと……他に好きな人でもできたんでしょう!?」
 リリーは泣きながらドアを出て行きました。
「待ってくれ!」
 ドラゴンは慌てて追いかけましたが、街角で彼女を見失ってしまいます。
 こうなることは分かっていたけれど、やはりショックは隠しきれません。

 あちこちの通りを探し回りましたが、愛するリリーを見つけることもできず……途方に暮れたドラゴンは、ふと立ち止まりました。
「リリー……もうこれっきりなのかい?」
 元の姿に戻りかけている指先を見つめるドラゴン。
 そうです。魔法使いとの約束の時間が、刻々とせまっていたのです。
「もう君を抱きしめることもできないんだね」
 こぼれ落ちそうな涙をこらえ夜空を見上げると、それを見計らうように、白いかけらがひとつ、舞い降りてきました。
 別々の場所で彷徨う二人の、最後の時間を彩るように降り始めた、今年初めての雪でした。

 街路が白く染まりはじめるのを見ているうち、ドラゴンの口から思わずため息がこぼれました。
「ふうーっ……」
 するとどうでしょう。それは、やわらかな薄桃色のシルクサテンのリボンになって、はらりと地面に落ちたのです。
「はぁ……」
 ため息をつくたびに、いくつもいくつも長いリボンがゆらゆらと転がり、やがてドラゴンの足元はピンク色の束で埋め尽くされていきました。
「そうだ! このリボンをツリーに飾ろう」
 アパートに面した大通りに立ち並ぶツリーを、ドラゴンはリボンで包み始めました。
 色とりどりの鈴やボンボンの合間を縫うようにリボンを巻いていくと、やがて通りじゅうのモミの木が、優しい光を放ちだしました。

「こ、これは……?」
 走り疲れ、泣き疲れて、とぼとぼと戻ってきたリリーが大通りで見たものは、まるで花が咲いたかのように薄桃色に彩られたツリーと、リボンをなびかせながらその間を飛び回る一匹のドラゴンでした。
「あの話は本当だったのね……」
 やがて、ドラゴンは立ち尽くすリリーに気づき、慌てて逃げようとしました。
「待って!」
 リリーがそっと歩み寄ってきます。ドラゴンは恥ずかしさと哀しさで胸がいっぱいになり、静かにうつむきました。
 そんなドラゴンのゴワゴワした髭に、リリーは優しくキスをしました。そして、ザラザラした鱗を愛おしそうに撫でました。
「ごめんなさい、私……」
「リリー……」
 思わず彼女の名を呼んだドラゴンの声は、今までよりいっそう艶やかな桃色の光の帯となってこぼれ、真っ白い絨毯の上に舞い降りました。

「あっ……!」

 それを拾おうとした時、ドラゴンは気づいたのです。自分が再び青年の姿に戻っていることに……。
 彼は拾い上げたリボンを、リリーの栗色の長い髪に結びました。
「メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス」

 幸せそうに微笑む二人の姿を、ツリーに隠れて見ている人影がありました。
「あんたへのクリスマスプレゼントさ」
 そうつぶやくと、気まぐれな魔法使いは箒にまたがり、雪空の彼方へと飛び去っていきました。

                                   Fin.

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