見出し画像

音楽理論独自研究 ―五度堆積理論―

前置き

私は結構前から、程々に調性から離れる方法に興味がありました。「無調」と呼ばれるほどでなくても、新しい表現を模索したかったのです。また、最近私は、いわゆる「アンビエント」にはまっています。

それに影響をうけて、当たり障りなく聞き流せる音楽を作りたいと思うようになってきました。そうしてできたのが「五度堆積理論」です。
これを作ったもう一つの理由として、12平均律では完全5度が綺麗に響くということがあります。また、3度の音程は、ときに強すぎる感情を持つこともあり、「聞き流せる音楽」を作るのに難しさを感じたこともありました。

これを使ってインパクトのある曲を作るのは難しいと思いますが、落ち着く曲を作れるので、個人的にはこれが気に入っています。

本題

これから理論の中身について話していきます。
その前に、ここで用いるコードの表記を定義しておきます。
過言氏のコード表記方法を参考にしました。

sus2・・・結構有名な表記。ルートに対してM2、P5を乗せる。
Rus2・・・sus2の5thをM6に置き換える。つまり、ルートに対してM2、M6        を乗せる。鍵盤上で5thを右(Right)に動かしたものと捉えると覚えやすい。
Lus2・・・sus2の5thをP4thに置き換える。つまり、ルートに対してM2、P4        を乗せる。鍵盤上で5thを左(Left)に動かしたものと捉えると覚えやすい。

規則

  1. 4つの声部を使う。4つの声部を上から順にソプラノ、アルト、テノール、バスといい、上下関係は変えない。

  2. 上3声はsus2,Rus2,Lus2のいずれかにする。ヴォイシングは自由。

  3. バスは上3声のいずれの音とも重複しない。また、これらの音の半音下にもならない。

  4. 一度に動かしていいのは1つの声部まで。

以上を守って音を配置していくと、例えば以下の通りになります。

特有の浮遊感のある曲想になったと思います。

これらの規則を定めた理由

1.について
単純に、4つの声部が私にとって扱いやすかったからです。また、sus2,Rus2,Lus2の形成+バスにちょうどいい数でもあります。

2.について
ここが一番大切だと思っています。
完全5度の響きを生かしたいと思って、五度堆積を基本とした和音を使うことにしました。五度圏上で見た方が分かりやすいと思います。

sus2,Rus2,Lus2

見ての通り、sus2は構成音が五度圏上で連続しています。Rus2とLus2については一つだけ離れた構成音がありますが、使える和音の中に入れました。sus2だけだと、あまりにもバラエティに乏しいからです。また、これら二つの和音については、構成音が離れているといっても五度圏上の距離はあまり遠くないので、十分に五度堆積の雰囲気を保っていると考えました。

3.について
ベースと上3声の音が被ってしまうと、音のバランスに欠けてしまうことがあるので、避けた方が良いと考えました。
また、上3声の音の半音下にバスを置くと、結構エグみのある響きになります。
一つ目はそれを避けた配置、二つ目はそれを避けなかった配置です。二つ目では、テノール(C)の半音下にバス(B)が来てしまっています。

4.について
これは単に、変化を穏やかにしたいという理由によります。

規則を破ろう!

理由について知った後は、規則を破りたくなりますよね(ならないかも)。私は、上記の規則は絶対的なものではないと思っています。というのも、これらを全て守って表現できる曲想には限界がありますし、それを考えた本人も頻繁に破っているのですから。
というわけで、ここでは、上記の規則を破るとどうなるかについて考えていきます。

1.について
声部は必ずしも4つでなくてもよいです。例えば、あえてバスを抜いてみると面白いです。不安定な表現をしたいときには候補になりそうです。
上3声を2つや4つにしてもいいです。前者の場合は「上2声」をパワーコードにして、後者の場合は「上4声」を7sus4にするのが個人的に好きです。

2.について
この規則が特に重要なのですが、あえてこれを破ってみると、表現の幅が一気に広がります。その場合は、何か別の理論を併用することになるかもしれません。

3.について
ベースと上3声の音を被せると、どっしりとした響きになることもあります。また、各声部の流れを考えて、この規則を破ってしまうことも、ときには仕方がありません。
さらに、上3声の音の半音下にバスを置いたときのエグさが好きな人もいるでしょうから(私もその一人)、それを分かっていれば自由に使ってよいです。

4.について
正直言って、これが最も強制力のない規則だと思っています。どれくらい声部を動かすのかは、表現したいものに合わせて決めていいです。ただし、2つ以上の声部を同時に動かす場合には、連続五度に気をつけましょう。あえて連続五度を使ってパワフルにするのも面白いですが。

おまけ

上3声がCsus2,CRus2,CLus2のそれぞれの場合で、取り得るバスの音をまとめたもの。結構聞きなじみのある響きも多いと思います。

実際にこの理論を使って作った曲

拙作「マリンスノー」より

拙作「界隈唄」より

おまけ4

豆知識:上記の規則1,2,3,4を満たすトラックを作ったならば、逆再生してもこれらは満たされます。

五度圏を「半音圏」(つまり時計回りにC,C♯,D,D♯,…,と続いていく円)に変えて、上記の規則を読みかえると、毒々しい音楽が出来上がります。その場合、上3声は二度堆積あるいはその展開形となります。

また、おまけ1で提示した和音はCLus2/F♯を除いて、それぞれ何らかの教会旋法に収まります。それを参考にすると、乗せるメロディが作りやすいと思います。CLus2/F♯は私も滅多に使いません。

終わりに

長々と話をしてきましたが、結局、この理論の使い方は自由です。規則は必要に応じて破っていいですし、別の理論と混ぜて使っても構いません。現在私は、これを十二音技法と組み合わせることができないかと模索しています。
ここまで読んでくれてありがとうございました。

2024年7月14日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?