
「青い舌(三)」
「たとえ大切な人が希死念慮を抱いたとしても、基本的に私達は何もできない。死を望む人にとって、周囲からの『死なないで』なんて言葉がどれほど空虚かを私は知ってる」
それを聞いて、二年ほど前、彼女が
自殺未遂をした事を思い出した。
彼女の言葉は続く。
「金は貸せないし、居場所は提供できない。でも死んでほしくない。死んでほしくない理由は、『あなたが死んだら私が悲しくなるから』だなんて言う人、そもそも友達ですらないよ」
「それなら、どうすればいいんだ」
それを聞くと、彼女は私の目をじっと見つめて、くしゃっと破顔しながら明朗に答えた。
「『今日は楽しかったから、死ぬのはまた明日にしよう』って思わせるくらいに、その人を大切にすることだよ!」
数ヶ月後、友人は急行電車に飛び込んで自殺した。
自分は、希望を与えることが出来なかったんだ。
代わりに、
「フィクションだから」
と御託を並べて、彼女の死を世間に公表することにした。