俺独自のゲームワールド[俺独ゲー]2-8
「急げ…急げ…!」
ケイゴは気を失った2人の兵士を背中に担いで洞窟の出口に向かって少しずつ進んでいた。溶解の魔人の足止めをキースが1人でしてくれている間にケイゴが兵士を安全な場所へ連れて行くことになったのだ。そして、溶解の魔人の仲間と思われる鳥人間に攫われたミランを助けてからキースと合流する。
「…!出口だ!」
光が奥から見えてきた。今頃外は夕方だったと思うが、王都騎士団が待機しているから明るいのだろう。
「…?…っ!負傷者です!洞窟から負傷者が!」
そう言いながら兵士が俺を担ごうとする。
「いや、俺は怪我してません。彼らを…」
「何言っているんですか!体中傷だらけです!すぐに手当を!」
「(えっ?さっき回復薬をかけたんだ。傷は治って…)」
そう思い、自分の腕を見ると、皮が溶けてところどころから血が流れていた。さっきの薬は傷を治すだけの効果しか無いものだ。溶解液の効用が消えたわけではなかったのだ。俺が洞窟から出てくる間に新しい傷が出来ていたのだ。
「(ま…じ…か……よ…。)」
俺は今更痛みに気付き、気絶してしまった。
――
「ちょっと!離しなさいよ![乱魔法]!!」
ミランは鳥人間に掴まれたまま洞窟内を飛び回られていた。このままではまずい。ミランの[乱魔法]は少量の炎が出ただけであったが、鳥人間の羽に燃え移った。
「おっと!!」
鳥人間は自分の羽に炎が点いて慌ててしまい、ミランの掴んでいた足を緩めた。
「![乱魔法]!」
足に向けて氷の塊をぶつける。すると足の力が弱まりミランを落とした。ミランは地面に激突した時の事を考え、地面に向かって[カチカチ液]の効果を弱める[ヤワヤワ液]を投げる。その力で少しの間だけ地面がクッションとなり、怪我を免れた。
「あちあちっ。おや?地面に激突すると思いましたが、地面を柔らかくした…?お嬢さん、どんな魔法をお使いに?」
鳥人族の男は火を払いながら地面に降り立った。
「魔法じゃなくて私の作った魔法薬よ。やっぱり魔法薬は役に立ったじゃない。」
「ほほう。魔法薬ですか。私の知り合いの鳥人族にも魔法薬専門の魔導士がいますよ。今度レディに紹介しましょうか?」
「随分と余裕そうね?今度っていつよ。私を生かすつもりなんてない癖に。」
「そんなそんな!私はレディに対して暴力を振るうような下衆ではございません!一度溶解の魔人さんから逃しただけでございます。」
「??どういうことよ?」
そう言いながら体についた汚れを払いながら礼儀正しく立ち直した。
「私めは[飛来の魔人]ビュッフェと申します。溶解の魔人さんととある作戦を決行していたのですが…まさかレディを相手にしろとは……!私、レディには攻撃しない主義ですので!裏切らせてもらいました!!」
「はっ?あんた飛来の魔人だったの!?で、そんな理由で私の味方に?」
「はい。私はどんな時でもレディの味方ですから。あの作戦を無駄にしたのはしょうがないですね。」
「(本当に?こうは言ってるけど一度はあのイカれた溶解の魔人の味方についてたやつ…油断しちゃだめね。)その作戦ってのはなんなの?」
「その作戦とは…この洞窟に眠る[バーク・ランス]の像の封印を解き、魔人の力を解放しに来たのですよ。」
「バーク・ランスの像…?確かバーク・ランスって王都エザーサン初代国王の事でしょ?その像がなんでこの洞窟の中にあるの?あと封印を解いたら魔人の力を解放ってどういう事?」
「バーク・ランスは当時その時代ではありえないような特殊な魔法を使い、国を守っていたそうです。そしてそれを危惧した当時の魔王[ディザブル・マサークル]がバーク・ランス王を石像にして封印しました。」
「そんな話、聞いた事ないわよ?昔っから本はたくさん読んできたし王都の歴史も詳しい方だと思うけど、そんなの書いてなかったわよ?」
「ええ、これは鳥人族の我々にしか伝わっていない本当の歴史ですから。」
そう言ってビュッフェは自分の羽から本を取り出した。
「この歴史書が本当の歴史です。」
手渡された本を読むと、こう書かれていた。
バーク・ランス王がディザブル・マサークルによって封印された事を、鳥人族である私は王都に伝えに向かった。しかし人間族ではないからか、私の話は誰にも信じてもらえない、頼みの綱の仲間達もディザブル・マサークルの仲間によって殺されてしまった。私はこの本当の歴史をせめて鳥人族にだけでも伝えておきたい。そして封印されてしまったバーク・ランス王を未来の勇者が助け出してくれることを願って、この書を書き残す。
「そんな…ひどい話ね…鳥人族だからって話を聞かないなんて…」
「この時代は今程人間族以外の種族が共存してはいなかったので、差別があったのでしょう。この書を残したのは王の側近をしていた当時の鳥人族長です。バーク・ランス王は種族差別をしない方だったので、側近を任せていたようですね。」
「そうなのね…」
「そして、長年の研究の末、ある新事実が判明したのです。それが、王が使っていた魔法というのが、現代で言う魔人の力、DE(デーモンエネルギー)だったという事です。」
「DE?それが魔人の力の源って事?」
「そうです。その力が封印の際に王の中に溜まり、王の封印を解いた時に溢れ出てくる事が分かったのです。」
「だから王の封印を解くために溶解の魔人と協力してこの洞窟に像を探しに来たのね。」
「そのつもりだったのですが、あの方は元から信用ならない方だったので、裏切るのは決まっていたようなものなのでお気になさらず。」
そう言い、今度は羽から瓶を取り出し蓋を開ける。酒の匂いがする。
「酒飲むの?突然ね。」
「嗜みです。嗜み。安心してください。私これでも魔人ですので戦闘になっても大丈夫ですよ。」
そう言いながら瓶を飲み干した。どこが嗜みよ…。
「とにかく、一時は溶解の魔人さんと共闘関係にありましたが、私はもうあなた方に敵意はありませんのでご安心を。ヒック。」
「もう酔ってる。」
――――
「……………………っ、………はっ!!」
勢いよく目が覚めて起き上がると、テントのような場所でベッドに寝かされていた。確か洞窟の外に出て、怪我が酷くて気を失って……そう思い、腕を見ると、包帯が巻かれていたが痛みは引いていた。
「………そうだ、早くキースとミランを助けに……」
「ちょっと待つんだ。」
「っ!?」
近くに椅子があり、そこに軽い鎧を着た青年が座っていた。彼がいたことに気づかない程、疲労が溜まっていたのだろう。
「君のその傷じゃ足手纏いになるだけだ。僕の団の団長が向かっている。大丈夫だ。」
「いや、でも!中にいるのは魔人…」
「僕達王都騎士団は魔人に対抗するために結成された組織だ。ケイゴの仲間もすぐに助け出す。君は自分の怪我の心配をするんだな。」
「だけど…………??なんで俺の名前を知って……」
そう言って青年の顔を見ると、見覚えのある顔だった。
「あれ?どこかで見たような…?誰だ?うーん?」
「おい!嘘だろ?僕の顔を見ても覚えてないのか?一か月くらいしか経ってないだろう?」
「あ!!シュバルツ!!」
そう、こいつはこのゲームワールドに来て最初に会った、というか最初に見た人間である騎士の、シュバルツだった。
「まさかこんなところで再会するとはな。」
「さっき君達に助けられたという部隊の兵士が洞窟から出ていってな。その報告を受けて我々の部隊が向かったんだよ。」
「あ!さっき助けた人か!良かった!無事帰ってきてたのか!」
「だから自分の心配をしろ!」
すると、テントの入り口が開き、他の兵士が来た。
「シュバルツさん!負傷した兵士が3人帰ってきました!」
「!そうか…!すぐ向かう!」
「っ!おい!まてよ!」
「何だ。」
「負傷したって……騎士団も魔人に手がかかってるんじゃないか!!人手が足りないなら俺も行く!」
「ぐっ…戦力が増えるのはありがたい…だが…君は負傷者だ…!怪我してる人間を、騎士である私が連れ出すわけには…」
「違う!」
「?何が違うんだ?」
俺は騎士に連れ出されて魔人を倒しに行くんじゃない。
「俺は自分で勝手に戦いに行くんだ。シュバルツに連れてかれるわけじゃなく、勝手にだ。それなら騎士の誇りとか関係ないだろ?」
誰かに言われて仲間を助けに行く訳じゃない。
「…分かった。僕が連れ出したんじゃなくて君が勝手に魔人を倒しに行くんだな。それなら勝手にしろ。」
「じゃあ行くか。」
「僕がいれば百人力だ。」
絶対に!仲間を助ける!!
2-8 完
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