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あの日、花が降った夜の話①


(泊まれる演劇『雨と花束』の感想日記です。
ネタバレしかありませんのでご注意ください)


気がつくと私はとあるモーテルの前にいた。
どうしてここに?

今朝は、早朝に京都に着いて親友と合流し、銭湯で朝風呂に入ったり、カフェでキッシュを食べたり、古本屋に寄ったり。街ゆく人は、鋭い日差しに目を細めながら、それでも夜から始まる祇園祭に向けてどこかそわそわ、わくわくしていて、京都の空気をやわらかくしていた。

夕方になり、暑さも落ち着いてきた頃。
ホテルでゆっくりしようかと思っていたら、
自然に足が赴き、たどりついたのはとあるモーテル。
青いカーテンが入り口にかかり、まだ入ることができないようだ。

そうだ、思いだした。

私はここで開かれる「雨と花の晩餐会」に
招待されていたのだった。
どうして忘れていたんだろう?

カーテンが開き、ホテルスタッフに導かれ、
チェックインを済ますと、今夜の晩餐会の時間を教えてくれ、それまでは部屋や会場で自由にしていいと伝えられた。

部屋に入ると、そこはなぜか懐かしい香りがした。
壁にかかっている「花束を持って見上げている女性」の絵が、印象的だった。1枚のレコードを聴きながら、スタッフから渡されたカードに目を落とす。

晩餐会では、オーナーの意向でそれぞれが自分の名を隠し、花の名を名乗るのだという。
自分に授けられた名は、「アヤメ」。
どこかでそう呼ばれたことがあったような、なかったような。幼い頃、同じ名を持つ友人がいたことを思い出す。彼女が憧れだったことと、なにかつながりがあったりして…なんて。

ふと時計を見上げると、晩餐会の時間になることに気がつき、私たちはロビーへ向かった。
エレベーターには、「傘を持った男性」の絵が飾られていて、 その姿から表情は読み解けないが、どこか彼はうなだれているようにみえた。

会場に向かうと、すでに他の旅人らでにぎわっていた。すでに食事をとり、お酒をたしなみながら、
それぞれが会話をしていた。
シオンさんというコンシェルジュから説明をうけ、私たちは席につく。天井からは、花が吊り下がっていて、ランタンの光を怪しく隠している。
しばらくすると、このモーテルの支配人だという人が現れ、私たちにこう告げた。

彼は今日、死ぬ。病気ではなく。
そして、彼と私たちは実は30年前に会っているという。とある呪い(まじない)のせいで私が忘れているだけで。

彼は、死ぬ前に彼の走馬灯を一緒に旅し、
このモーテルで30年前に開かれた
「雨と花の晩餐会」での出来事を、見届けてほしいと私たちに伝えた。

それからは、コンシェルジュの指示に従って円をつくった。
走馬灯に入る前、「30年前のモーテルには、呪いをかけた、魔女がいるから気をつけて」と忠告をうける。彼女はいつどんな姿で現れるかわからない。彼女には絶対に本当の名前を知られてはいけない。そのため、それぞれに与えられた花の名を名乗るように、と。そして30年前の走馬灯には、30年前のコンシェルジュたちもいるが、決して30年後のモーテルからやってきたことは誰にも話してはいけない、と告げられた。

魔女、どんな存在なのだろうか。
私は彼女に名前を知られないように、そして同時に自分の名前も忘れてしまわないように、二つの名を交互に胸に刻んだ。

走馬灯を旅する呪いの儀式は、こう続く。
「自分の幼い頃の記憶を、1つだけ、思いだしてください」
私がふと思い出したのは小学生の頃、1人留守番をしているのが心細く、不安でたまらなくて、母が早く帰ってこないかと窓を覗いて待っていた時のこと。
あまりにも窓を覗いている姿が、外から見ると不審だったので、帰ってきた母に怒られたのを覚えている。

どうしてこんな悲しい思い出が思い出されてしまったんだろう…。そんなことをふと思い返していると、呪いが始まった。風が吹いているような、誰か子供が笑っているような、時や空間がぐるぐる回っているような不思議な感覚に襲われ、気がつくと30年前のモーテルにいた。

そこはさまざまな旅人で溢れていた。
バーで楽しく会話をする人たち、お酒を飲みすぎてソファで寝ている人、そして私たちの合間をぬってバーカウンターへキッシュを頼みに行った青年。彼こそが、30年前の支配人「川野雫」だという。
エメラルドのような深緑のセットアップを着て、前髪を長く垂らし、どこか落ち着きがない。彼はオーダーを済ますと、早々と自室へ戻って行った。

そこから私たちは、モーテルの中を自由に歩いていいと言われた。晩餐会中は、部屋が開いていれば自由に入って中の旅人と会話をしていいらしい。
鐘が4回鳴るその時まで、晩餐会を楽しむように言われた。

私は、部屋に戻っていった、30年前の川野雫のことが気になって、彼の部屋を訪ねることにした。
彼は突然部屋に入ってきた私や他の旅人に、
心を閉じていたが、やがてポツポツと話し始め、
手に持っていた「オズの魔法使い」が好きなことなどを話してくれた。
そして、自分にかけられたある呪いについて、
教えてくれた。

彼は幼い頃に魔女と出会い、1つ魔法が使えるようになる代わりに、とある呪いをかけられた。

それは"毎日0時になると、彼はすべての人から忘れられてしまう”呪いだった。

彼はこの呪いを魔女に解いてもらうために旅をしてきて、このモーテルにやってきたと言う。

このモーテルの名は、「ヨワスレモーテル」。
何かを忘れたい人たちが、ここに集まってくる。
彼は他をもっと回るといいと言い、私たちは部屋を後にした。

ロビーに向かうと、1人の男性がお酒で頬を赤らめながら何やら旅人と話しこんでいた。私は別の場所からやってきたという旅人とお酒を飲むことにし、「ミヤコワスレ」と名乗る先ほどの彼の話を聞いた。
彼は、パタンナーとして働いていたが、ある時仕事のしすぎで、疲労が心身に異常をきたすようになってしまった。真っ直ぐ線が引けなくなってしまった彼は、医者から「休め」と言われ、仕事を「忘れる」方法を探しに、このモーテルにやってきたのだと言う。

忘れられたくなくても忘れられてしまう人と、
忘れたくて仕方がないものを忘れようとする人、
真反対の願いをもつ彼らが存在するこのモーテルが、少し不思議なものに感じた。

そこで彼らと話していると、4度目の鐘が鳴り、
私たちはロビーに再び集まった。
ここで私たちは、30年前の川野雫が体験した
「あること」を一緒に見届けるのだ。

ロビーに再びやってきた川野雫は、すみれという女性に出会う。彼女は「ファフロツキーズ」という、
雨ではない「物」が空から降ってくる不思議な現象を研究しているのだという。
このモーテルの近くでよく「花」が降ると聞き、
やってきた。

『オズの魔法使い』がお互いに好きなことから意気投合した2人。すみれは雫に、ファフロツキーズを探しに明朝に一緒にでかけようと彼を誘う。だが彼はうなずけない。日にちが変われば、すみれの記憶から、彼は消えてしまうからだ。「忘れてしまう」と説明する彼にすみれは、「絶対に忘れない」ための口付けをする。
だが、ラジオから流れてきた、日付が変わる時報と共に、すみれの記憶から雫は消えてしまった。流れる水のように、人のなかに永遠に残らない存在。愛したいと思えた大切な人にさえ忘れさられてしまう彼は、どう生きていくのが正しいのだろう。彼女に忘れられたことにショックを受けた雫は、再び部屋に戻ってしまう。
私たちは、彼と見届け、少し休憩をはさむことにした。

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