星にねがいを!小話:英一郎と北斗とヒヨ
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百景島ハイランドでの⑥の騒動終了直後。
各所で避難していたチトセ小生徒たちが、食堂に全員集合してくるまでの待機中。
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ヒヨと北斗が、ずぶ濡れで食堂のテーブルに着席している。
さっき様子がおかしくなっていた生徒たちは、すっかり落ち着きを取り戻し、騒動の事は記憶から抜けているようだ。
「あー、疲れたぁ~~。でも電気がついてると、ホッとするねぇ~」
「ほーんとビヨ。もーオレさま疲労困憊だビヨォ」
「つかおまえら、寒くねぇのかよ。それ」
「わたし、寒いより、これを食べそこなって後悔したくないんだ!」
きりりと言いきるヒヨの手には、ソフトクリームのカップ。
北斗が持つのはロングポテト。
防潮鉄扉が誤作動してしまった緊急事態のおわびとして、遊園地が売店スナックを一人一つずつサービスしてくれたのだ。
ソフトクリームの機械も無事に稼働し始めたと聞き、ヒヨは迷わず食べそこなっていたソフトを注文!
待ちに待った牧場ミルク百パーセントのソフトクリームだ!
それぞれ一口はむっと食べた二人は、
「「生きててよかったぁ!!」」
と、しみじみ叫ぶ。
※
そんな二人の様子を遠巻きに眺めていた、英一郎。
息をつき、ヒヨに近づいてくる。
「こら。なんでそんなにアイスあんの。サービス、一人一つずつだよ?」
ヒヨの前には、ソフトのカップがずらりと列を作って並んでいる。
が、ヒヨはむふふっと笑って英一郎を見上げてきた。
その、得意げな顔。
「うちの班、ソフトの無料チケット、みんな使いそこなっちゃってたんでーすっ。そいで、みんなわたしにくれるって!」
まさか全部ソフトになるとは思ってなかったけどな、とボソリ呟く北斗。
「……ええ? で、キミの保護者たちはどこ行ったの」
「担任からの事情聴取だってよ。オレら、勝手に食堂からいなくなっただろ」
「わたしも行こうとしたんだけどね、真ちゃんが、ここに座って、食べて待っててって」
「あー……、察しました」
食べてる間はおとなしくしているだろうという腹か。
ヒヨと北斗が出てきたら、余計にややこしくなるのは必至だ。
顔を見合わせるヒヨと北斗。
片方はよくわかっておらず、片方はどーでもよさげだ。
――そして。
カタカタカタカタカタ……ッ。
ソフト三つめにして、ヒヨが青ざめて震えだした。
ビヨスケはすでに凍って転がっている。
大雨にうたれた後でアイスをバカ食いって、ほんとバカだなぁと、英一郎は熱いカフェオレを飲みながら眺める。
生死をかけた大立ち回りの後で弱ってるだろうに、こんなダメ押しをしたら体調をくずすにちがいない。
地球の法則からポンと飛び出たような不可解な生き物だけど、いちおう人間の女子らしいから。
「しょうがないな、一つちょうだい」
「しょうがねーな、一つよこせ」
声がかぶった英一郎と北斗。おたがい視線をかわし、半眼になる。
「おおおんっ、せっかくのソフト、次にいつ食べられるかわかんないから、食いだめしとこうと思ったのにぃ……っ」
無念の形相でうめくヒヨから、英一郎は黙ってカップを一つとる。
ついでに脱いだコートをヒヨにばさっとかけてやる。
「あああああたたかいいぃぃっ。神よぉぉぉ、ありがとうござばずぅぅ」
「クリーニング出してから返してね。――うわ、あまっ。ソフトクリームなんて何年ぶりだよ」
顔をしかめる英一郎に、北斗は黙々と食べながら、薄く笑う。
「おまえ、こういうことするタイプなのか。意外だわ」
「……べつに、真くんに借りがあるだけだよ」
と、コートの中から顔を出したヒヨが、まだカタカタ震えながらも、にへっ笑う。
「北斗くん。英一郎さんってねぇ、スナオじゃないけど優しかったりするんだよ。今日もこのソフトのチケット、北斗くんの分が一枚足んないからって、こっそり自分のぶんを足しといてくれムゴッ」
ソフトをカップごとヒヨの口に突っ込む英一郎。
「オンギャアアアひゅめひゃヒィぃぃ(冷たい)ーーーッ!」
トドメを刺され、ヒヨは倒れ伏す。
が、北斗の耳にはしっかりと届いていたらしい。
「へー。そりゃどーも? エイイチローサン」
ニヤニヤと笑われて、英一郎は両眉を持ち上げる。
まったく、ヒヨの周りの人間に関わると、毎度いたたまれない気分にさせられるのは勘弁してほしい。
「どういたしまして。ヒヨちゃんの言うとおり、僕は優しい優しい人ですから。ぞんぶんに恩にきてください」
残ったソフトのカップは、後2つ。
これなら片付けられそうかと、二人が手を伸ばした瞬間。
「あ、さっきの子! やっと見つけたぁ!」
売店のエプロンをつけたお姉さんが、ヒヨの真横に立った。
「ほへっ、わたしです?」
「ええ! すみません、さっき気づかなくってっ。交換した無料チケットのウラ、ほら、見てください!」
英一郎も横から眺めてみると、店員さんが差し出してきたチケットには、
「大当たり」の文字。
「おめでとーございます! 当店名物『天空の十二段ソフトクリーム』、プレゼントになりまーす♡」
差し出されたのは、コーンにのっかった、カラフルな十二色の……1メートルあまりのソフトクリーム。
「わ、わぁーい……っ、ラ、ラッキー……?」
「――じゃ、ボクはまた」
英一郎は椅子をガタッと鳴らして立ち上がる。
だが北斗にヒジを掴まれた。
「待てよ。優しい優しい人」
「英一郎さん、ありがとぉ! めっちゃ恩にきまぁぁすーー‼︎」
「じょ、冗談じゃないよっ。ボクは関係ないからねっ」
「だってこれ、英一郎さんがくれたチケットで当たったのかもしんないじゃんっ」
「そ、そんな証拠はないだろっ!」
と、ニッコニコの店員さんが、ふたたびやってきた。
「お取り分けのお皿、3枚お持ちしました~♪」
・・・・・・・🐥
青い顔をして、カタカタ震える三人。
ヒヨは北斗のジャンパーと英一郎のコートで二重にくるまれ、だるま状態。
戻ってきた真たちは、何が起こったのかと目を瞬く。
離れた席から寝てるふりして眺めていた凪が、「ウケんね」とホットティーをすすって、ポツリ。
「……英さん、何があったんですか」
「聞かないで……」
最後の一口を、英一郎が食べきった。
とたん、おおおっと周囲から拍手が起こリ、記念に店員さんが写真をバシャバシャ撮り始める。
もう、一生ソフトクリームなんて見たくない。
英一郎はばたりとテーブルで絶命した。
~了~
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