星にねがいを! ヒヨ誕生日記念SS②
「どうして毎年、ヒヨの誕生日に合わせて論文提出なんだよ」
いらだちのせいで、手がすべってスペルミス。
画面に赤い波線が表示されて、ますますいらだつ。
オレは低くうなって、バックスペースキーを連打する。
PCの画面には、カリフォルニア時間の時計に並べて日本時間を表示してある。
そろそろ向こうは18時を回るころだ。
昼からみんなで誕生会だと話していたから、そろそろ帰り道かな。
家に到着したころを見計らって、呼びかけてみようか。
いや、朝から通話したばかりだし、しつこいかな。
「声、聴きたいな……」
心の中でつぶやいたつもりが、声になっていたみたいだ。
となりの部屋から、ブッと噴き出して笑ったあと、ごまかすセキばらいが聴こえてきた。
北斗、まだ起きてたのか。
「はやく寝ろよ。明日も朝練だろ」
「真もなー」
やっぱり隣の部屋から、ちゃんと覚醒している声が返ってきた。
おれは気まずい気持ちでイスに腰をすえなおし、また画面にもどる。
だけど頭の中に浮かんでた数式が、油断するとヒヨの声と笑顔に塗り変わっていくんだ。
……今日はどんなふうに過ごしたんだろう。
やっぱり画面ごしじゃなく、直接祝いたかった。
ダメだ。やっぱりコールしてみよう。
三回鳴らして出なかったら、あきらめようと決めて、ビデオ通話アプリのアイコンを立ち上げる。
その時だ。
窓の下から、かすかに動物の鳴き声が聴こえてきた。
細く、高い声。
おれはガタッと立ち上がり、窓から庭を覗きこむ。
暗くて見えない。
だけど、今のはたぶん……!
オレは論文のデータを保存するのも忘れて、部屋から飛びだした。
~つづく~
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