
【あっさじーん伝記】 あけおめクラッシュ
あさ 「えー、ご心配なさっているようですが、あのー、明後日ですね、あのぉ、遊図という雀荘でですね、あのぉ、勤務がありますので、えぇー、そこの本走であのぉ、1万くらい勝つつもりなのでハイ、そこで補給しますぅ、灰っ」
2020年1月4日土曜日。
あさちゃんのSEKIRO配信(4:06~)で唐突に告知が行なわれた。
彼は「僕は自慢じゃありませんがアクションゲームが得意ですよ」と自慢していたこともあり、最近になってPS4を使ったSEKIROの配信を始めた。
SEKIROとはPS4の新感覚リズムゲームであり、2019年ゲームオブザイヤーに選ばれた神ゲーである。
このゲームはアクションゲームとして捉えると大変難しいが、リズムゲームだと思えば比較的容易にクリアできるものだ。
アクションゲームとしての難易度はかなり高いので、彼が同じ敵にやられ続けているのは彼が下手なのではなく、単純に誰でもこうなるのだ。
誰だって何度も心が折れかける。むしろ彼は頑張っているほうだ。しかし一人で頑張るのはなかなか難しい。
要は視聴者の応援が必要なのである。応援してあげてほしい。
コストはかからないのでチャンネル登録もしてあげてほしい。
*
日時は変わり、1月6日月曜日 朝。
森 「今日遊図に”あけおめ”しに行こうと思うんだけど行かない?」
私 「いくぅ~~」
善は急げだ。私はすぐに支度をして、新宿で森先生と合流した。
森 「あさじんさん所持金40円だってさ」

私 「やばいじゃん。1000点も放銃できないね」
麻雀遊図はテンゴである。お手持ち40円では800/1600のツモられで破産だ。
将棋には米長哲学という言葉がある。相手の大事な対局ほど全力でやれ、という考えだ。私は今日こそこれを実行すべきだと考えた。
お手持ち40円でテンゴを打つ、こんな背水の陣は見たことがない。彼の意志に敬意のお気持ちを表明して、私は千点一万円のつもりで打とうと決心した。
14時半ごろ、私と森くんはスキップしながら遊図へ到着。
遊図遊びにきました pic.twitter.com/PDTynZ9KFs
— きみ@ (@kimi3906) January 6, 2020
扉を開けると、ちょうどカウンターの前の卓であさちゃんが打っている姿が目に入った。こちらに背を向けているので我々には気づいていないようだ。
T 「いらっしゃいませ!現在満卓ですので、こちらでお待ちください。」
森 「あいっす」
あさ 「イラッシャイマセー!」
こちらを確認せずに抑揚のない挨拶をするあさちゃん。
皇帝オラゴンからの「目ェ見て挨拶せぇや」というありがたい教えは年を越せなかったようだ。
我々は店員のTくんに促されて待ち席へ移動する。
私はあさちゃんが今年も元気に迎えられた喜びを抑えることができず、彼に直接あけおめを言いに向かった。
私 「あさじんさん明けましておめでとう!!」
あさ 「・・・・・・」
私 「・・・・・・?」
T 「いま麻雀に真剣っぽいので・・・」
私 「あっ、はい」
明らかに一瞬こちらを見て2秒ほど固まっていたが、麻雀に夢中だったのに話しかけた私が悪いのである。
突然の来訪に驚いたのだろう。このときはまだそう思っていた・・・。
*
T 「あさじんさんとは仲直りしたんですか?」
私 「ぼちぼちです」
T 「そうなんですね、よかったです。森さんもですか?」
森 「いや、僕のほうは逆にボチボチって感じで」
T 「あ・・・そうなんですね。お二人はあさじんさんと同卓希望ですよね?」
私&森 「YES」
T 「では申し訳ありませんがもうしばらくお待ちください。タイミングよく卓を立てますので。」
私 「あい~」
Tくんは遊図の一軍メンバーだ。接客に関しては完全に秀でている。
しばらく待つと卓が割れ、2席空いたのでお客さん2人に森先生と私で打つことになった。2ゲームほど打ってお客さんが1人抜け、メンバーが入れる絶好のタイミングが来た。
私と森くんがあさちゃんの参戦に期待に胸を膨らませていると、明らかにゴネている会話が耳に入ってきた。
あさ 「いやぁ、でも」
T 「せっかくあさじんさんに会いに来てくれたんですから」
あさ 「いやいや、でも」
T 「はやくして」
あさ 「灰」
会うのはエジンバラの卓割りから約2か月ぶりだ。
久しぶりに聴いたホンモノの「 灰 」に私と森くんは喜びを隠せなかった。いざ、デュエルスタンバイだ。
始まった。
— 麻雀遊図澤田 (@yuzu_sawada) January 6, 2020
森君 VS フィリア君 VS あっさじーんさん
*
森 「そういえばあさじんさん、一緒にすごろくとかビンゴとかやりましたけど、麻雀打つのは初めてじゃないですか?」
あさ 「・・・・・・」
森 「あれ?」
あさ 「くしゅん!!くしゅん!!へっくしゅん!!」
森 「あさじんさん風邪ですか?寒いですもんね」
あさ 「・・・・・・」
お客 「大丈夫かい?」
あさ 「ダイジョウブデス、花粉症デス」
森 「え?」
私 「あさじんさん、そんなひどいならマスクしたほうがいいよ」
あさ 「・・・・・・」
森 「え、遊図ってマスク禁止なんですか?」
あさ 「・・・・・・」
澤田 「そんなことないよ」
森 「マスクしたほうがいいすよ」
あさ 「・・・・・・」
森 「あさじんさん俺のことめちゃめちゃ嫌いやん」
あさ 「・・・・・・」
あさ 「・・・・・ッチィー!!!!」
森 「うわ!びっくりした!いきなり大声はやめてくださいよ」
あさ 「・・・・・・」
お客 「びっくりしたねぇ~」
あさ 「すみません」
鈍感な私でもわかる。これは明らかに、完璧に、100%、完全にガン無視している。もはや露骨に無視しすぎて一周まわって認識しているレベルだ。
「もしかしたら花粉症がひどくて答えられないのかな?」という隙を1ミリも与えないかのように、お客さんにだけ100%レシーブして、私と森くんには100%返事をしていなかった。これもSEKIROで身につけた根気力が影響しているに違いない。やはりあれは人を成長させる素晴らしいゲームだ。
あさじさん俺が何話しかけてもシカトしする、難聴と会話してる気持ち
— きみ@ (@kimi3906) January 6, 2020
あさじさんの点数過少申告誰も直さないの面白すぎるwここは戦場だ。
— きみ@ (@kimi3906) January 6, 2020
森くんの実況は続く。
東1局1本場、あさちゃんが2600点の1本場を和了するが、申告は2600のまま。誰も指摘せずに次局へ進んだ。
東4局あさちゃんの親番、私がメンピンツモ赤赤ドラを和了し、満貫2枚と誤申告するも、すぐに森くんとお客さんから「それ跳満だよ」と指摘が入る。
見事な親被りを見せたあさちゃんは、珈琲貴族エジンバラのMリーグ応援で白鳥プロが前原プロに7700点打ったときと全く同じ顔をしていた。
私はなにか面白い一言をかけてあげようかと思ったが、エジンバラのときのように「もう二度とやらねえから!」と叫ばれるとお店に迷惑なので控えることにした。雀荘へきて店員が「二度とやらねえから!」と叫んでいるお店なんて見たことがない。
南4局あさちゃんの親番。
点数状況はかなり僅差だ。
【東家】あさ 27100点
【南家】私 24500点
【西家】客 24300点
【北家】森 24100点
9巡目、私の手牌は下図の牌姿になった。

対面の森くんが2mを切った。私は目が悪く一瞬2mか3mかわからなかったため、少し遅れてポンの発声。これがあさちゃんのチーモーションに重なってしまった。客観的にみて「邪魔ポン」に見えるようなアクションになってしまったのである。
とはいえ、すぐに発声せずに迷い箸のように手をゆらゆらさせる彼にも非がある。
チラっとあさちゃんのほうを見ると、エジンバラで机をぶっ叩いたときと同じ顔をしていた。花粉症のせいかキレていたせいか顔も真っ赤であった。
私は邪魔ポンでなかったことを表明するために、一刻も早く和了せねば、そんな気持ちで打っていた。
終盤、運よく森くんから南を和了し、私は無罪を表明、殴られずに済んだ。おまけにトップになることもできた。結果よければすべてよしだ。
【東家】あさ 27100点
【南家】私 24500点→28400点
【西家】客 24300点
【北家】森 24100点→20200点
よくみると森くんとお客さんが訂正してくれた私の満貫→跳満の過少申告が完全に効いているが、いま言うとせっかく鎮火した炎が大爆発してしまう恐れがあるので我慢だ。
トップの私の手元に勝利の野口英世が3枚集まった。
が、そのうちの2枚をあさちゃんが「ゲーム代イタダキマス」と一瞬でもぎ取っていってしまった。
私は大変ショックを受けた。
野口がもぎ取られたことにではなく、今年初めてあさちゃんから私に向けられた言葉が「ゲーム代イタダキマス」だったことにショックを受けたのだ。「普通にあけおめくらい返事してよ」と思っていたのである。
お客さんが抜け、ちょうど待ち席に別のお客さんが2名待機していたため、あさちゃんも抜けることに。
結局彼とは1ゲームしか打つことができなかった。女流プロを追っかけしてももう少し打てるだろう。
私の手元にお釣りの600円を置いたあさちゃんは、そのままオーナーから裏に呼び出された。
澤田 「きみね、仮に嫌いなお客さんがきたとしても、なにも言わないっていうのはあり得ないでしょ?」
あさ 「すみません」
澤田 「今度食事しようとか、競馬行こうとかを断るならまだわかるけど、聞いていた限りではすべて世間話だったよ。世間話を無視ってそんな接客この世にある?」
あさ 「失礼しました」
個人的には、はっきり言って無視されたことなど何とも思っていないし、なんなら結構面白かったので満足している。それよりも、こんな低レベルなことで怒られている41歳を見ているととても悲しくなった。
反面教師としての程度が低すぎて「十数年後こういう風にだけはならないようにしよう」とさえ思わなかった。
(※私のように楽しむ客もいますが、基本的に店員さんがお客さんを無視するのはご法度です。要注意。)
私と森くんは19時ごろまでフリーを打ち、メンバーのOくんと澤田さんとともに食事にいくことにした。
私 「それじゃお先に失礼します」
森 「あさじんさん、今年は一緒に大井競馬いきましょうね!!」
あさ 「アリガトウゴザイマシタ」
私 「あのメンバーさんまったく心がこもってないですよね」
澤田 「あとでキツく叱っておきます」
*
その夜。


くしゃみができなくて返事ができなかったという羽虫レベルのメッセージが届いた。くしゃみで返事ができないのは一瞬だけなのである。
彼の言い訳は基本的に論理に穴が空きすぎてほぼ穴がメインだ。


初めは「花粉症のせいで返事ができなかった」と言っていたのに、途中から「突然きたから応対のシミュレーションができなかった」という言い訳に切り替わった。数歩先のことも考えずに嘘をつくタイプによくみられる即席矛盾だ。
そもそも応対のシミュレーションなど普段からまったくしていないことはバレバレであるし、なんならシミュレーションのことを「シュミレーション」と言ってる人は絶対にしていない。
しかし、そんなフナムシでもわかる嘘をつかれても、私は元介護士としての恩情があるのか、彼に怒ったり強く当たることはできなかった。
今月は張り切っているのかお金がないのか、彼は遊図のシフトに数回入っている。
次に私が遊びに行く機会があれば、今度はちょっと良いマスクをプレゼントしようと思う。

いいなと思ったら応援しよう!
