【ショートショート】ひとりぼっちのマンドレイク
ある日、マンドレイクは引っこ抜かれた。
隣にあった人参に間違われ、引っこ抜かれた。
畑仕事の手伝いに来ていた少年に引っこ抜かれた。
両親はすぐに気がついて、息子の耳を両手で塞いだ。
しかし、マンドレイクは鳴かなかった。
ただ静かに、窪みのような小さな2つの目で少年をじっと見つめていた。
「なに、このマンドレイク、気味が悪い」
お母さんはマンドレイクを放り投げた。マンドレイクは悲しんだ。だけど声も上げられなければ、涙を流すこともできなかった。
マンドレイクは歩き出した。自身の居場所を求めて。とてとて歩くマンドレイクを見て、人々は気持ち悪がった。マンドレイクは……気にしないように歩き続けた。
そんなある日、マンドレイクは何かにぶつかった。マンドレイクは顔を上げた。マンドレイクがぶつかったのは茶髪で、癖っ毛の少女だった。
「あら、マンドレイクじゃない。どうしたの?そういえば……引っこ抜かれているのに鳴かないのね、あなた。変な子」
マンドレイクは「変な子」と言われて俯いた。
「私とおんなじね」
少女の言葉に、マンドレイクは再び顔を上げた。少女は笑っていた。
「私もね、変わってるの。草木とお話できるんだ。みんなお友達。でもね、同じ年のお友達も、ママもパパも、私のこと変な子って仲間はずれにするんだ……」
少女の顔は笑っていた。でもマンドレイクにはわかった。少女の心には土砂降りの雨が降っていた。
マンドレイクは少女の体をよじ登り、頭までくると、根っこの手でよしよしした。
「慰めてくれるの? 優しいのね」
少女は笑っていた。涙を流しながら笑っていた。マンドレイクは少女の隣にいることに決めた。マンドレイクはもう、ひとりぼっちではなかった。
マンドレイクは、少女の植物の世話の手伝いをして過ごした。
その森には、マンドレイクを使いとする、薬学で人々を助ける優しい魔女が住んでいて、どんな病気も治してしまうと伝えられるのはもう少し、先のお話。
(了)