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【忘れられない人】マキシマムザホルモンのお兄さん

高校生の私はマキシマムザホルモンに夢中だった。

2年生の時、新木場STUDIO COASTで行われるマキシマムザホルモンのライブに1人出かけた。学校が終わり急いで自宅へ帰ると、豹柄のリュックに荷物を詰め込み足早にライブ会場へと向かった。

ロッカーは早めに埋まるという情報を得ていたので到着早々確認したが、すでに全部埋まってしまっていた。
まだライブの経験値が低かった私はとてつもない絶望を感じた。この豹柄リュックを背負いながらライブを楽しめと、、、?

諦めきれず何度か右に左に移動しながら確認していたところ、「すいません。」と声を掛けてきた人がいた。驚きながらもそれに応えると「もし困っていたら、僕と一緒にロッカーを使いませんか?」と。

その方はマキシマムザホルモンの上ちゃんに似ていた。というかリスペクトがスタイルに滲み出ていた。そっくりだった。

上ちゃん


私より一回り以上上に見えるいかついお兄さんにかなり戸惑い、正直頭の中はフル回転だった。
「一緒に入れるってどういうこと!?盗難のリスク高過ぎない!?こんな粗い詐欺に引っかかるわけある!?怪しすぎるでしょ!?そんなのに騙されませんけど!?」

私の出した答えは「あ、いいんですか、お、お願いします、、、」であった。なんとも不用心。

その上ちゃん似のお兄さんが言うには、ロッカーは確保済みとのこと。なんとすでに閉めた鍵をもう一度開けて一緒に入れてくれるということらしい。
しかも「不安でしょ?」と言って、ライブ中鍵は私に託してくれると言う。

神降臨である。

開演までの間、必然的におしゃべりをすることに。
私の年齢を伝えるとお兄さんの彼女も私と同い年であると言った。高校2年生であると。すごく驚いた。
お兄さんの年齢も聞いた。きちんとした年齢は失念したが、たしか40オーバーだったと記憶している。すごく驚いた。

正直今出会ったら驚きよりもドン引きしてしまうが、そんなカップル本当にいるんだ〜!すげ〜!というピュアな感想だった気がする。


高校2年生の私はマキシマムザホルモンと同じくらい大槻ケンヂにもハマっていた。
当時、大槻ケンヂは精力的に活動していた。筋少の再結成と並んで大槻ケンヂ著のグミ・チョコレート・パインの映画化もまた、サブカルチャーに所属する我々を忙しくさせていた。

オーケンこと大槻ケンヂ


お兄さんは「実は僕の彼女も大槻ケンヂが好きでね。」と話し始めた。

お兄さんカップルはある日、大槻ケンヂ好きの彼女の提案で、グミ・チョコレート・パインを鑑賞しにデートへ行ったらしい。鑑賞後は一緒にピクニックをしようと約束していたらしく彼女はお弁当を作ってきてくれた。
わくわくしてふたを開けると、そこには「グミ」「チョコレート」と「パイナップル」だけが入っていた。

グミ・チョコレート・パイン


そんなエピソードを「うちの彼女変わってるでしょ〜。」とケラケラと話すお兄さんは幸せそうだった。
私はどう反応するのが正解かわからぬままその会話が終わった。10代ながら、他者との対話の難しさを身に沁みて感じていた。

それ以外にももちろんホルモンの話もしたし、筋少、丸尾末広の話などをした。お兄さんも当たり前にサブカルチャーの人だった。タバコ吸う?とも聞かれたけど、それは丁重にお断りした。
夢みたいに楽しい時間だった。

やがて開演の時刻となり、もちろん入場順の違う我々は「また後でね」と散り散りになった。
ライブ中、宙に浮くお兄さんを何度も見かけた。お兄さんはダイバーだった。


ライブが終わり、待ち合わせのロッカー前に辿り着くとお兄さんがすでにいた。

「あ、よかった〜」とお兄さん。「盗まれちゃったらどうしようと少しだけ思ってたんだよね」と。
そりゃそうだよな。こんな女子高生を信じてくれて本当にありがたい。
「またどっかのライブハウスで会おうね!」と言って握手をしてくれて、人混みの中に消えていった。

その後もホルモンのライブには足繁く通っていたけど、お兄さんを見つけることはなかった。


見ず知らずの小娘を信じて鍵を渡してくれたことが嬉しかった。
お兄さんの顔は忘れちゃったけど、忘れたくないエピソード。

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