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◆怖い体験 備忘録/第1話 押入れの目

世界はもうほとんど隅々まで探索し尽くされ、どんな些細な不思議現象も、すぐに仕組みが暴かれるこの時代。
今さらこんな話をするのもなぁ、という気分は濃厚にあります。

しかしながら、思えば小学4年生からの長きに渡り、散々わたしを悩ませてきた『所謂ひとつの心霊現象みたいなやつ』が、まるでなかったことのようになるのは些か悔しい。あんなに怖い想いをし続けてきたのに。

と、言うわけで。
このシリーズは小学4年生から数十年にわたり、うすらぼんやりとした心霊現象的な何かに時々困らされてきたが、何故か父が亡くなった途端にそんな現象と遭遇する確率が目に見えて減ってゆき、結婚を境にほぼまったく心霊的な怖い体験をしなくなってしまったわたしの、悔し紛れの備忘録なのであります。

基本的にはほとんどわたしが実際に遭ったり、遭った本人から聞いた話になりますが、今となってはあまりに遠い昔になってしまった話もあり、記憶違いや勘違いなどがあるかも知れません。
しかし自分にとっては、その時それが紛れもない事実として脳裏に刻み込まれた体験であることが大前提として、お話して行こうと思います。

どうか野暮なツッコミはお控え頂き…
暇で暇で仕方がなく、ちょっとだけ怖い話がお好きなあなた。
今宵は少しだけ、わたしの思い出話にお付き合い頂ければ幸いでございます。

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あれは、小学4年生の初夏のことだったかと思います。
その頃わたしは公営住宅に住んでいて、妹とまだひとつ布団を分けあって眠っていました。
いつもは妹ともちゃもちゃお喋りしているうちに気づいたら寝ているのがお決まりでしたが、その日は妹が眠ってしまったあとも、何故だかちっとも眠くならなかったのです。

仄暗い豆電球の灯りの下、どれくらい眠れずに天井を見上げていたのか。
何の気なしにふと押入れの方を見たのは、本当にたまたまだったんでしょうね。
そこでわたしは初めて、押入れの戸が10センチほど開いているのに気づきました。

その押入れには、上の段には使わない布団が、下の段には日頃使わない生活雑貨やわたしたちが遊び飽きたおもちゃが、みっしりと詰め込まれていました。
なので、どうせ眠れないなら何かおもちゃでも出して遊ぼうか…とまでは、思ったかどうか。
とにかく、わたしは『それ』に気づいた時、声にならない恐怖で瞬時に固まってしまったのです。

少しだけ開いた押入れの、一番下。
ちょうど、上の画像を横向きにしたような感じで、緑色の皮膚を持ったふたつの目がじっとこちらを見ていました。
一瞬見間違いかとも思ったのですが、それをじっと見つめ返す勇気はありません。
わたしは慌てて布団を頭から引っ被り、隣で寝ている妹を起こそうとしました。
しかし、引っ張ってもゆすっても叩いても、妹は一向に起きる気配がない。
別の部屋には両親が寝ていましたが、寝ている妹を残したまま行くのはあまりにも気が咎めました。
それにもし、「あれ」が押入れから這い出したりしてきたら……

どうしようもなく、わたしは怖くて泣きながら、とにかく布団を被ったまま朝になるのを待とうと心に決めました。

さて。
どれくらい、そこから時間が経った頃でしょうか。
怖さのあまり、ぎゅっと閉じていた布団の中のわたしの瞼に、ふと光が差すような感覚がありました。
少し迷った末、そっと薄目を開けると、布団越しにもそれと解るほどに眩しい青い光が、押入れとは反対方向のどこかから差し込んでいるようです。
まだ怖い気持ちはあったのですが、恐怖心に好奇心が勝り、わたしは少しだけ布団の端を持ち上げて、その光の正体を探そうとしました。

すると。
わたしのすぐ真横、妹とは反対側のとなりに、青く光る仏像のような人が横たわっていたのです。

押入れには、正体不明の緑の皮膚をした、二つの目。
わたしと押入れの間には、すっかり眠り込んでいる妹。
そして、妹と反対側の隣には、正体不明の青く光り輝く仏像みたいな人。
今考えても、まったく状況がわかりません。

しかし、明らかに異物であるにも関わらず、何故だか青く光る人に対しては、全く恐怖を感じませんでした。
むしろ、心のどこかで「あ、この人(?)がいるから大丈夫なんだ」と思ったことは記憶しています。
ほっとした刹那、いつの間にかわたしはそのまま眠り込んでいました。

翌朝、いつも通りに目覚めると、やはり押入れは10センチほど開いていました。
すぐに当時は怖いもの知らずだった妹に事態を説明し、押入れを開けてもらいましたが、夕べは確かにそこにあったはずの【目】の主はどこにもおらず、おもちゃ箱があるだけでした。


わたしは中途半端な霊感女だったので、この話はここで終わります。
他の話もおそらくあったことをありのままにお話するだけで、特にオチなどはありません。

ただ、この体験以降、わたしは時々不思議な体験をしたり、この目の主のように緑色をした何者かと遭遇するようになりました。
とりあえず、押れや戸を開けっ放しにしなくなったことだけは確かです。

余談ですが、この話を妹にしてみたところ「あー、あの時のあれ、こんな風に見えてたんだ」と言っていたので、妹にも印象深い話だったようです。

それでは、このたびはこの辺で。


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