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競争優位性について改めて整理してみた
こんばんは。IT企業で事業責任者をやっているasaです。
今回は、競争優位性って何だろうという事について、改めて整理してみました。
前提として、売上が100億、1000億規模になると、競争優位性は重要な論点になりますが、スモールビジネスや地場特化型の事業の様に規模が小さい場合は、競争優位性を検討するよりも、目の前の顧客の課題に向き合うことの方が大事になります。
今回は、あくまで前者の事業を前提した考察である点、ご認識ください。
1. 競争優位性とは
競争優位性の定義
競争優位性とは、ビジネスにおいて自社が他社よりも有利なポジションに立っている状態を指します。重要なのは、その強みが他社に真似できない独自の価値であることです。
競争優位性が事業にもたらすもの
①市場シェアの向上
当たり前ですが、競合よりも選ばれやすくなるため、市場シェアが高まります。
②収益性の向上
競争優位性のおかげで、高い価格の設定が可能になる、コスト構造で有利になる等のメリットがあります。その結果、利益率が上がり事業の持続性が高まります。私の前職のエムスリーでは、製薬企業向けのマーケティングサービスを提供していますが、医師の9割をカバーするプラットフォーマーが他にないため、単価が高く収益性の高いビジネスモデルを形成していました。
③顧客の支持
競合他社にはない価値を提供できるため、顧客の離脱率も減ります。
2. 競争優位性の種類
大きく分けて、①コストリーダーシップ、②独自の価値提供、③集中(ニッチ戦略)、④ネットワーク効果、⑤先行者利益、⑥知的財産、⑦圧倒的な営業力の7種類に整理できます。
①コストリーダーシップ
● 特徴:
競合他社よりも低いコストで製品やサービスを提供できることによる優位性です。大量生産によるスケールメリットや、業務効率化によって原価を下げ、「安く提供できる」または「同じ価格でより高利益を得られる」状態を作ります。例えば、製造業なら生産ラインの自動化やサプライチェーン最適化でコスト削減し、小売業なら大量仕入れや物流の効率化で安価に商品を提供します。
● 強み:
価格競争において有利になり、価格設定の自由度が高まります。他社が追随して値下げ合戦を仕掛けても、自社のほうがコスト構造が優れていれば耐えられるため、結果として市場シェア高くなります。
また、低コストで利益率が高ければ、その分を研究開発・新規事業やマーケティングに投資してさらなる成長につなげることができます。
②独自の価値提供
● 特徴:
価格ではなく、品質、他社にはない独自の機能・サービス、デザイン、優れた顧客体験(UX)、圧倒的なブランド力(世界観)などで他社と差をつける優位性です。
● 強み:
顧客は多少価格が高くても独自の価値に惹かれて商品やサービスを選んでくれるため、価格競争に巻き込まれにくくなります。また顧客ロイヤルティが高まるため、継続利用率も上がります。差別化された企業は模倣困難なポジションを築きやすく、長期的な利益につながります。
特にブランドについては、一朝一夕には築けないため、顧客との各接点(ウェブサイト、SNS、広告、製品パッケージ、カスタマーサポート対応など)において、一貫した世界観・メッセージを発信し、顧客ロイヤルティを高める中で確率できるものです。
③集中(ニッチ戦略)
●特徴:
市場全体ではなく、ある特定の顧客層や特定の製品・サービス領域に焦点を絞る戦略です。特に、大手企業が狙わない、あるいは参入コストが高く競合が少ない分野を狙うことが重要です。中小企業や新興企業など、リソースが限られる状況では、経営資源を集中投下することで効果を最大化しやすくなります。
●強み:
特定の領域に絞って事業を展開するため、その領域における知識やノウハウが蓄積しやすくなり、専門性やブランド力が高まることも期待できます。
④ネットワーク効果
● 特徴:
ユーザーや取引相手の数が増えるほどサービスの価値が上がるという現象がネットワーク効果です。これは主にプラットフォーム型のビジネス(SNS、マーケットプレイス、マッチングサービスなど)で見られる競争優位性です。ネットワーク効果が強いと、一度利用者が集まりだしたプラットフォームは自己増殖的に価値が増し、「勝者総取り」の市場構造になりがちです。
● 強み:
ネットワーク効果を得たサービスは参入障壁が非常に高くなります。なぜなら後発の競合が同じサービスを作ってもユーザーが少なければ価値が低く、ユーザーは既に人が集まっているサービスを使い続けるからです。結果として、一度リードした企業が市場の大部分を支配し、独占的な利益を得られる可能性があります。またユーザー数が増えることでデータが蓄積し、サービス改善や新サービス開発にも活かせるという好循環も生まれます。
● 注意点:
ネットワーク効果は強力ですが、最初に一定の臨界点を超えるまでユーザーを獲得するのが大変です。また、ネットワーク効果で築いた優位も、市場環境(新しい技術やトレンド)が変わると一気に崩れる可能性があります。たとえばかつてのSNS王者のMixiはFacebookやTwitterという新参プラットフォーム台頭により存在感を失いました。
⑤先行者利益
● 特徴:
新しい市場や技術領域において、競合に先んじて参入する事で得られるものによって、競争優位性を確立する方法です。
● 強み:
- ブランドの先行確立:先行して製品やサービスを提供することで、業界のパイオニアとして位置づけられ、第一想起を獲得やすくなります。
- 学習効果:事業開始が早い分、開発・生産・マーケティング等の各プロセスにおける経験が蓄積されやすく、コストや品質面で継続的な改善が見込めます。
- 顧客の囲い込み:特許の取得、標準製品や業界のデファクトスタンダードの確立、重要な流通チャネルの確保、ネットワーク効果の実現などによって、後発企業がスムーズに入ってこられない障壁を作りやすくなります。また、先行者が提供する製品・サービスに慣れた顧客が離脱しにくくなるため、顧客ロイヤルティを確保しやすくなります。
⑥知的財産
● 特徴:
知的財産権(特許、実用新案、意匠、商標など)を取得・活用し、自社の技術やブランドを法的に保護することで得られる優位性です。他社に真似されたくない発明やノウハウがある場合、特許を取得しておけば一定期間、独占排他権が認められます。商標権を取っておけば、自社のブランド名やロゴを他人に使われるのを防げます。
● 強み:
知財は、それ自体が参入障壁として機能しますし、場合によってはライセンスフィーによる収益化も期待できます。逆に、知財戦略を軽視すると、いつの間にか他社に権利を押さえられていて動けなくなったり、訴訟リスクで事業継続が危ぶまれる事もあります。
⑦圧倒的な営業力
● 特徴:
商品性ではなく営業力自体を圧倒的な強みとして、活かす方法です。営業プロセス(リード獲得、提案、クロージング、フォローアップなど)が体系化されている、地域・業種・オフライン/オンライン等の特定のチャネルで強い顧客接点を持っている、といった状態です。
● 強み:
既存顧客との関係を維持しつつ新規顧客を獲得する能力が高いため、外部環境の変化があっても安定した売上を見込めますし、クロスセルやアップセルの機会を広くつかむことで、顧客単価やLTVを高めやすくなります。
3. 競争優位性が崩れる要因
競争優位性は一度築けば永遠に安泰という訳ではないです。競争優位性が崩れる主な要因は下記の通りです。
技術革新による陳腐化:
自社の優位を支えていた技術が新しい技術革新によって時代遅れになるケースです。例えば、かつて携帯電話市場を席巻したノキアはスマートフォンへのシフトに乗り遅れ、優位性を失いました。自社の強みであったフィーチャーフォン技術が一瞬で陳腐化したのです。競合他社の追随:
他社が似たような製品をより低価格で出したり、豊富な資金力で同じ技術を実現したり、デザインをコピーされる事によって、優位性を維持できなくなる事があります。市場環境の変化:
規制緩和や顧客ニーズの変化などにより、これまでの優位性が効かなくなるケースです。例えば高級志向が強みだったブランドが、不況で消費者の節約志向が高まると苦戦する、といった具合です。模倣や代替技術の出現:
特許で守っていた技術の代替手段を他社が開発したり、迂回されるケースです。技術的優位も、一つのやり方に固執していると別の角度から攻略される恐れがあります。
4. 競争優位性を維持する方法
競争優位性を維持するためのポイントは、下記の通りです。
代替困難性:
明確な代替品や代替手段が存在しない提供価値を追い続ける事によって、ユニークなポジションを維持し続ける方法です。シンプルに顧客のニーズに応え続ける事が重要です。流通網の独占:
自社の商品を扱ってくれる販売チャネル(店舗や代理店、オンラインプラットフォームなど)を囲い込んだり、自前で強力な仕入の流通網を築いたりする方法です。法規制の活用:
業界によっては、許認可が必要など法的な参入規制があります。フィンテック、医療、エネルギー等の分野が該当します。これを逆手にとり、いち早く認可を取得してしまう、規制に適合するよう先行投資する事で参入障壁を築けます。渉外対応を通じて、業界のルールメイキングに関与する事もあります。大規模投資の実施:
シンプルな戦略ですが、大規模な投資を続ける事自体が、他社が追随する事が難しく、技術やコスト面で優位性を築くための方法になります。契約による囲い込み:
主要なサプライヤー、プラットフォーマー、人気コンテンツホルダーと独占契約を結び、他社には提供しないようにする戦略です。
5. おわりに
改めて整理してみて思いましたが、競争優位性は、短期で実現できるものではないため、明確な戦略設計と中長期的に磨いていく事が重要ですね。
以上です!
※最後に
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