初観劇 舞台 刀剣乱舞「悲伝 ~結いの目の不如帰~」
初めて生で観劇した2.5次元舞台が、今回の刀剣乱舞「悲伝 結いの目の不如帰」でした。詳細なレポではなく、個人的な感情の備忘録となっております。後半ネタバレに配慮せず、溢れる想いを殴り書いておりますので、29日まで楽しみにとっておられる方はお気をつけ下さい。
初めて彼らを目にしたときの、あの感情をずっと覚えていたくて綴ろうと思った。あんなにも心を打たれたはずなのに、もう場面場面の映像が抜け落ち、断片的なものになっていることに焦りを覚える。私は脳内に映像として、記憶を留めておくことがあまり得意ではないのかもしれない。
それでも、夜の虫の音、傘に移る水鏡のように煌く照明、私の頭上に垂れてきたと思う程に見事な桜、異なる時代を生きる人間の怒号、横たわる亡骸が持つ重力、白い世界の無限に広がる水平線、かの一振り。
瞬きする間に消えていく、あの景色を紐づけるよすがとなりますように。
今まで観劇といえば何年かに一度劇団四季に行くくらいのもので、2.5次元の舞台は生で観劇したことがなかった。
はじめて2.5次元の舞台を見たのは、動画配信サービスに期間限定で公開されていた刀剣乱舞、「虚伝 燃ゆる本能寺 再演」だ。何やら巷で流行っているけれど舞台とはどのようなものなのかしらと、本当にちょっとした好奇心からだった。それなのに、まさか、こんな…。
燃ゆる本能寺に生きる刀剣男子達を見た衝撃は割愛するが、こうして期間限定企画で新規参入者となった私は、序伝、そして外伝と円盤を購入し、幸運なことに生で観劇する機会をこの度、与えられたのだった。
もはやこの身は私だけのものではないと、私に突如与えられた付加価値を理解し、それに見合う行動を心がけた。道に落ちているゴミを拾う、子どもを連れた方には席を譲る、筋トレを続ける、という風に。大変、地味な徳で申し訳ない。
とうとう目の前に並ぶ、この日が来た。
息も満足に出来ないまま、暗闇の中へと目をこらす、端から解けずに残る気配。
そして、意識は中央へ。
光。
寸分狂わぬ佇まいで、12振りがそこに在った。
直に一度も彼らの姿は見たことがない筈なのに、発せられる声と細やかな仕草に、間違いなく「あぁ、知っている」と何度も思う。独特の抑揚が手元のスマホからでなく、大きく前から私達を抜け、背中へ響いていくことに感動する。
翻る度に布地の光沢が目に眩しく映り、反った靴先の軽微な動きも逃したくないと、前のめりになりそうな身体を無理やり背もたれに沈み込ませる。
なにしろ、身を焦がす程に美しい刀剣達が、生きて、動いているのだ。
目の前で、同じように人の姿をして。
こんなの知らなかった、信じられないことが起こり鳥肌をさすり続ける。剃りたてにも関わらず、毛羽立ってザラリとした肌の感触に、あ、私はここだった、とふと自身の所在を思い出す。意識して空気を肺まで取り込む。
先へ先へと進む物語を追いかけていく。どこに行きつくのだろうとこの先を思案する余裕はなかった。表には姿が見えない他の刀剣達の表情がありありと思い浮かんだり、いつのまにか決して交わらない彼らの目線の先にいる主の事をも案じていたりする。
自身の想像力でこの場の背景を補完していくというより、徐々に、手を引かれ自然に「視える」感覚に慣れてくる。きっと、何も構えずに、舞台上で生きる人々に身を委ねるだけでよかったのだ。
雑踏の人々の表情に、ごうごうと鳴る風に、胸を打つ馴染みある調べに。
小烏丸の優雅な足の組み換えや、鶯丸の器用に上がる楽しげな口角は私をうっとりと夢見心地にさせる。大般若が刃先の向きを変える度、鉄に冴えた光が宿る。大包平の目線はこちらまで真っ直ぐ心に届き、骨喰が震わす空気はいつだって会場全体へ静かに響いていく。
鶴丸が階段を降りて来る姿はバーサーカー其の物だ。燭台切の表情の豊かさから人柄の良さを感じ、思わず微笑む。歌仙の大きく振り切る太刀筋は本当に予想外だった。長谷部と不動の息の合った熱量溢れる名乗りに目を見張る。
山姥切のいなす敵陣の刃先があまりに鋭く迫って見え、手に汗握る。鵺の存在については、今尚整理を続けている最中だ。
斬撃をかわす際の靡く髪、毛先一本一本まで完璧な支配下に置き、スポットライトの中、何千人の視線を一身に纏って完成される絵があった。まさに、神、宿る。
一人佇む彼を見上げる私達は、この物語において非情にも思える時の濁流に飲み込まれるしかなく、この腹から込み上げてくる心情は、もはや信仰心に近い。
あなたは多分、声をも上げない人なのだろう、 三日月宗近。
神ですらも、穏やかに凪ぐ水面に一石を投じてみたくなるものなのか。しかし、実際には悠久の深淵に一人、その身を持って投じられた。贄のように。
八千代の孤独に耐え、挑む、大義の為に。さりとて、彼の大義とは一体何だったのだろう。伸ばされた手を取ることは叶わない、姿勢は低く、小指から薬指と、螺旋を描くように、ただ柄を握り直すのみ。
どうすべきなのか、もう答えは知ってしまっている。それでも、刀を構え対峙し続けるのだ。幾度も、幾度も、幾度も、幾度も。
どこにも行き場のない痛ましいその姿は、よく知る人に重なる。「帰りたい」「帰りたくない」と声も上げられないままに耐えて挑む人が、同じく「ここ」にもいるのではないか、と思う。
一方で、あんなにも悲しくて美しい、苛烈に生きる人はいない、人の姿を象ってはいるがやはり私達とは異なる存在なのだ、とも思う。
正直まだ気持ちが追いついていない。29日が終わるまでこのまま浸っていたい。考え続けたい。
どうか、行かないでほしい、終わらないでほしい。
いつまでも、終わりのない夢の中、この「悲伝」に苦しめられていたいと思える舞台だった。行く末はただ一つの道ではないと示されたのだから、結ばれた約束にいつかまた月明かりが差すと信じる。
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