愛し方
音楽が好きだ。音楽が僕の生き甲斐で、大好きなロックバンドがヘッドホンの中で自分を肯定してくれるから、なんとか生きていけている。
僕の音楽の愛し方を、僕の大好きなメロディに乗せて、歪で美しい言葉に乗せて、鳴らし続けているバンドが、新しいアルバムをリリースした。
『はじめから自由だった』
あまりピンと来なかった。曲を聴いた。特典に付く、メンバーの楽曲解説を読んだ。
大好きなロックバンドの新曲の歌詞を読んで、その意図を知って、僕は好きなバンドの音楽で初めて傷付いた。
今までのハンブレッダーズの歌詞で語られる音楽への愛は、僕のそれと限りなく近くて。だからこそ、ハンブレッダーズへの愛も大切にしてきた。ずっと信じてきた。でも、そうやって愛するのは間違っているって、大好きな音楽に嘲笑われてしまった。
ムツムロアキラが歌う皮肉が好きで、僕の汚い部分もハンブレッダーズが歌ってくれることで昇華されていた。その皮肉の対象になってしまって、敬愛するヒーローと真逆の感情を持つ自分をただ責めて、余計に悲しくなった。
そんな蟠りを心に残したまま、アルバムツアーに足を運んだ。
ライブ中盤、MCでこう語って曲に入った。
再生とビートアディクションを演奏した。僕は捻くれているから、その言葉を信じきれなかった。ずっと僕の歌だと思っていた再生の歌詞を疑ってしまうくらいに。
でも、ここまで愛を拗らせてしまう人間だから、僕はハンブレッダーズを愛した。僕の人生のフルコーラスのギターは、このバンドが弾いていてほしい。結局、大好きな爆音が胸を昂らせる。
あの言葉の真意はこうで、これを理解できないのは自分が悪くて、でもリスナーに向けてあの言葉を書くヒーローを自分がどう思うのか少し分かっていて、分かりたくなくて。頭で思考を何周も回して、論理が追いつかない。そうやって上手く音にノれずにいた自分を、鼓膜をつんざくギターソロがいつの間にか熱くしてくれていた。
本編最後の曲。
初めてヘッドホンで新譜を聴いた夜、傷付いて、悲しくて、その曲のことしか考えられなくて。けど、何度も何度も僕の孤独を救ったのはいつもハンブレッダーズで、拳の握り方を教わったのも、ライブハウスに居場所を作ってくれたのもそうだった。このバンドに沢山の大切を貰った。この瞬間にちゃんと思い出せた、もう忘れない。
一度好きになったんだから、僕の心の中にこんなに大きい希望をくれたんだから、表立って届けているものは100%愛したい。それこそが、それだけが正しい愛し方だと思っていた。そうじゃなくてもいいのかもしれない。今僕はこの一曲のうちに何回も希望を貰っている。その事実だけで十分だって、ちゃんと思えた。
「はじめから自由だった僕ら!」
心の底から、嘘偽りない自分の声で、ステージに叫んだ。この言葉の意味を、この期に及んでやっと気付いた。
完璧に愛せなくても、自分が作った理想に縛られる必要なんてない。ハンブレッダーズを聴き始めたのも、孤独な夜に再生ボタンを押したことも、自分が自由に選んだ。はじめから自由だった。
アンコール最後の曲が始まった。
僕がハンブレッダーズに出会うずっと前から、変わらずに歌ってきたこと。程よい距離感が美しくて、たまに気持ちが重なると涙が出るほど嬉しくて。そんな愛し方を、このアルバムを通して伝えたかったんだと分かった。
気持ちが重なる瞬間をもう一度って、手紙を送るみたいにライブハウスにまた足を運ぶ。だから、今日はここまで。
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