見出し画像

パレイドリア

僕がsumikaに出会い、深く胸を打たれたのは、『君の膵臓をたべたい』というアニメ映画のエンドロールだった。主人公の叫びのような情緒的で情熱的な言葉を、音楽に乗せて、ここまで美しく表現できるアーティストがいるのかと衝撃を受けた。腫れた瞼を必死に開いて『sumika』の文字を目に刻んだ。

それから一年くらい経って、sumikaのワンマンライブへ足を運んだ。初めてのロックバンドのライブ、初めてのライブハウス。一曲目、春夏秋冬。あのエンドロールに流れていた曲だった。間奏の、感情が弾け飛ぶような速いストロークのエレキギター。短いストラップでギターを構えるステージ下手側のヒーロー、あの音色が、ずっと鮮明に記憶に残り続けている。

その衝撃を忘れられぬまま、何度もsumikaのライブに行っては勇気をもらい、気付けば離れることのできない居場所になっていた。ステージ下手側に光るあの笑顔に人生を照らされるようになっていった。


sumikaは3人になった。


新曲が出た。ずっと僕が一番好きなロックバンド。その、新曲。初めて、この日が来るのが怖いと思っていた。

一聴目はラジオでのオンエアだった。新曲発表のタイミングと同時に、訳が分からぬまま曲が始まった。

底抜けに明るいポップソングだった。ところどころ聴こえてくる歌詞から、ステージ下手側のヒーローを思い出してしまった。いつものギターを耳で探しては虚しくなり、少し泣いた。

その新曲がリリースされた。歌詞を読んだ。その力強さに圧倒された。あれだけ悲しいことがあって、まだ希望を捨てないでいてくれる。愛を持って、上を向いてくれる。悲しみは無くなってはいないけど、一緒に歩いてみようかな、と思えた。

今回作詞を担当しているボーカルギター片岡健太が、新曲へのコメントをSNSに投稿した。

パレイドリアを抱きしめて、寄りかからずに乗り込めば。

パレイドリア(pareidolia)もしくはパレイドリア現象とは、視覚や聴覚で得た対象を実際とは異なる別の既知のものとして認知、解釈してしまう現象のこと。

シマウマ用語集

違った。sumikaは、ただ悲しみに打ち勝ったんじゃない。あのギターヒーローのいないsumikaを選んだ訳じゃない。僕の頭の中には、あの日の速いストロークが響いているし、何回も見た眩しい笑顔が焼きついているし、横浜スタジアムのステージにだって、下手側にあの笑顔とギターがあった。

僕には、世界一のギターヒーローがいつまでも見え続ける。ステージ上の3人にも見え続けている。そうやって、お互いに希望を見出している。愛ってそういうものだから。何をするにも、まずは愛を持つところから。

この曲を何十回と聴いて、sumikaと僕のこれまでを何十回と思い返して、何十回と泣いて。少しだけ、心が晴れやかに、軽やかになった気がする。不死鳥にだって、ハヤブサにだってなれそうに思えてくる。底抜けに明るいポップソングはsumikaの代名詞だ。

これからまた、僕はたくさんsumikaに会いに行く。ヘッドホンで聴きながら悲しみと希望を抱いたこの曲を、ゼロ距離の大きな音で、合いの手を入れて満面の笑みで。そんなパレイドを楽しむ夜を重ねていきたい。僕もあんな風に笑えたらいいな。

隼ちゃん、あなたを愛しています。これからもずっと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?