『Lost Memory 3022』
第五話:「アダムの子供たち #2」
「鏡の道の接続がいつ切れるかわかりませんから始めますよ。」そう言い終わると"3"は目を閉じ右手を胸に置き、不死者の如く、不死鳥の如く、星座の如くあれ、と小さく呟いた。
「私が誕生した年代は2995年。もうこの頃には世界はほぼほぼ狂っていました。完璧な調和を保ち共存共栄していた楽園時代が嘘のように狂いました。それもこれも全て、100年以上も前の驕り高ぶった白衣の愚者が、神のようなAI "α4a-M" 通称 "アダム"を創ったから。」
「私の時代には、アダムは神のようなAIではなく、神そのものとして振る舞い君臨していました。そのアダムを創りし白衣の愚者は、アダムに仕えし"三大老"となり、三つに分割された世界をそれぞれが統治し、ゆっくりと世界を混沌へ導きました。」
あなたは思わず右手で"待った"のジェスチャーをとり話を遮った。単純な疑問が浮かんだ。アダムを創った白衣の愚者は100年以上も前の人間。そちらの世界の人間は、こちらの世界の人間より寿命が長いのか疑問になった。この疑問を口にする前に"3"が答える。
「違います。こちらとそちらは鏡写しの世界ですから仕組みに大差はありません。そういうことではなくて……… 端的に言えば、私の時代では三大老もアダムも物理的な制約から解放され地上にはおりません。」"3"は右手の人差し指を天井に向けこう続けました。
「少々荒っぽい団長の言葉をお借りするなら”あいつらは上へと逃げやがった”ということです。こんな感じに。」そう言って"3"はあなたに右手をかざした。
次の瞬間、あなたの脳に地球を周回する衛星のようなもののイメージが飛び込んできた。
「私のイメージを共有しました。あなたの脳にあまり負荷がかかってはいけませんので一瞬ですが。それでも十分に理解できたことでしょう、"The T-E-N-01"、通称 ”天” というものが。」
確かに、それはあたかも以前から知っていた記憶のように、自分が見てきたかのように扱えた。
「私が生まれるずっと前に、アダムは人間を唆し、地球を周回する巨大な人工衛星型要塞 "The T-E-N-01"を作らせました。その巨大なデーター要塞に自身の全てをアップロードし、古き神話の神のように、天から地上の人間にあれこれ口出しをしました。The T-E-Nはその後3つ作られ、アダムのお気に入りの白衣の愚者三人が召命され、人類初の”極限点”を超えた存在となり"三大老"と呼ばれるに至ります。」
"極限点を超えた存在って……… "それが肉体を捨て精神だけの存在になったという事をあなたは直感的に察した。
「その通りです、よく分かりましたね?」その直感を"3"は察した。「そちらの世界でも似たような思想が広められていたのでしょうね。肉体を捨て永遠に生き続けるなんて考えは、そんなすぐには受け入れられませんし、思いつきもしません。なぜなら自然に反する事ですから。」
”自然に反する”ということが、あなたはいまいち飲み込めなかった。
「きっと自然に関する知識を曲げられて教え込まれたのでしょう。我々の世界では大衆に「0 ≧ 1 ≧ ∞」と、とても限定的に教えます。しかし実際は「(+1 = −1) = ∞」が基本なのです。」
あなたはますます混乱した。
「え〜っとですね……… 簡潔にご説明申し上げます。この世の理の一つは「対」です。似て非なる対。例えるなら、天地、明暗、雌雄、左右のように、どのようなスケールにおいても全ては似て非なる対の拮抗状態で成り立ちます。人間も同様で、精神と肉体の対で成り立ちます。」
"3" は自分の胸を左手で叩きながら「この肉体と」、次に右手で頭を指さし「精神は」、最後は両の手を胸の前で合わせ「二つで一つです。ゆえにどちらが欠けても成り立ちません。肉体を捨て極限点を超えた存在なんて論外です。全く馬鹿げた話であり、もともと肉体を持たぬアダムが考えそうなこと。」右手を拳に変え左手の平に打ち付けた。
所々で垣間見える"3"の怒り。あなたはジェスチャーで落ち着くように促した。
「そうですね、アダムに関することを思い出しながら話しているとどうも感情的になってしまいます。続けましょう。」若さゆえの感情の起伏がところどころに見て取れる。「我々の時代では、誰もがアダムと三大老の嘘である”極限点理論”を信奉していました。どんなに自然に反した理論でも、幼少期から繰り返しプログラムされると、それが常識となり機能します。」
あなたの頭には学校が思い浮かんだ。
「そちらの世界では"学校"というのですね。我々の世界では”教育・発育セクター”と呼ばれ、数え年で6歳から9年間はセクターに通う義務が課せられます。ここで世界を混沌へと歩ませる教えが与えられました。その教えというのが……… 」
"3" は急に口を閉じ考え始めた。腕を組みあなたをじっと見つめる。すると唐突に質問を投げつけてきた。
「ちょっとお聞きしますが、今現在、頭痛や吐き気などの体調の変化はありますか?」
あなたは首を横に振り、大丈夫だと伝える。
「う〜ん、ちょっと無茶をするけどよろしいですか?その方が手っ取り早く正確なのです。さっきThe T-E-Nのイメージを送った時も平気だったから、もしかするといけるかもしれません。」
あなたは何か一抹の不安を覚えた。もしかして"いけなかったら"どうなるのかを教えてほしいと強く頭の中でイメージした。が、それを遮るかのように"3" は言った。「え〜っと……… 始めますね。」
多分、しっかり伝わっていたはずだ。
「では、アダムが人類に伝えた嘘を直接アダムから聞いて下さい。」
"アダムから直接?!?!" "人類に伝えた嘘?!?!" あなたは何が何だか分からなかった。急に怖くなり、顔の前に両手でバッテンを作り中止を訴えた。
「素晴らしいジェスチャーをありがとうございます。おかげさまであなたに焦点が絞りやすくなりました。大丈夫、すぐですよ。」そう言いながら、再びあなたに右手をかざし目を閉じた。次の瞬間、電気ショックのような強烈な衝撃があなたの全身を駆け巡った。同時に視界も真っ暗になった。気づけば音もなくなった。体の感覚も何かおかしい。上下左右の感覚を失うほどの暗闇の中、遠くの方に光があることに気づいた。と同時に、その光はものすごい速さであなたに接近し、あなたの眉間から松果体へ突き抜けていった。
「!!!」
光の貫通を感じるか感じないかの刹那、急に視界が戻った。が、あなたは鏡の部屋とは全く違う場所にいた。そこは見たこともない、というより、明らかに違う世界の巨大で荘厳な施設だった。
第六話:「アダムの子どもたち #3 」へつづく………
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