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[ Decode : Art ] 失われぬ威厳

はじめに

 本件は [ Decode : Art ] 象徴画について でご紹介いたしました「大いなる業をなす女」に続くオリジナル象徴画「失われぬ威厳」のお話です。前回と同様に、象徴画に付随した物語と密儀と格言を順に綴ってまいります。象徴画に多層的に織り込まれた象徴をお楽しみください。では早速はじめましょう。



「失われぬ威厳」

・概要

 「失われぬ威厳」と題したこの絵画は、千年王国を築いた賢明なる古の騎士王が荒野となってしまった己の朽ちた王国の跡に鎮座する姿を象徴的に描いた作品です。画面中央に鎮座する髑髏の騎士王は、王国や肉体を失いながらもその威厳が失われることはありません。朽ち果てた王国と共に王の存在も滅びゆく運命にありますが、その姿は「虎は死しても皮を残す」という諺を体現し威厳を放ち続けています。死後もなお放たれ続ける王の威厳は何ゆえでしょう?その答えは物語の中にあります。




・物語

 千年王国を築いた賢明なる騎士王は、人の身では抗うことのできぬ災厄にみまわれ、その人生に幕を下ろすこととなりました。天災に焼き払われた王国の跡の、折り重なる剣と髑髏の中心で、賢明なる騎士王は死してもなおその威厳を失うことなく鎮座しています。その姿は、避けられぬ死の宿命と刹那的な生の美しさの両面を象徴し、「メメント・モリ」の教えそのものを体現しています。炎と共に立ち込める黒煙は、生まれては消えゆく生命の無常なる時の流れを語りかけ、王の鎮座する姿と共にあらゆるものがいずれ滅びるという諸行無常の理を伝えています。

 賢明なる騎士王は、繁栄の頂点に達し誰もが生の喜びを享受していた最中でさえ、常に死を意識していました。栄華を極めし千年王国も、それを築いた己自身も、いずれは灰になる運命であると悟っており、己の鎧に「Memento Mori」と刻んでいました。その結果、突然の災厄に全てを奪われ、絶望にその身を打ちひしがれようとも、常に死を意識しつつ儚き生を全うしていたからこそ、死したその姿には生への後悔や執着は微塵も残らず、ただただ威厳を放つのでした。

 賢明なる王を囲む無数の髑髏は、最後まで王に忠誠を尽くし命散らした忠臣たちであり、生前の王が貫いた生き様の象徴といえます。生前、王は忠臣たちを「友」と呼び、身分を超えた深い信頼関係を築いていました。その絆は、死後も忠義の髑髏として王の傍らに寄り添い、その不変の絆を物語っています。また、王もその忠義に応えるべく、迷うことなく忠臣たちと共に最後を迎える道を選びました。その身が炎に包まれようと剣を支えに鎮座したまま、死してもなお忠臣たちを守るべく友の墓標となった王。命すら投げ出す利他的行動の結果であり、簡潔に述べれば他者を思う心が、亡骸となっても失われぬ威厳をより輝かせるのです

 王の失われぬ威厳は、全て生前の生き様ゆえなり。

 王を囲む無数の骸と剣は、全て生前の信頼の証なり。

 刹那の生において成すべきことを成した者は、死したのちに永劫の時を超える者となる。

 死を恐れるな。死を忘れるな。死を受け入れろ。

 我々はいつか死ぬ者なり。

 生まれた時から死に向かい歩く生き物なり。




密儀

 象徴画は二重の意味を持つのが常。ここからは「失われぬ威厳」に込めた密儀的な意味について述べてまいります。




・哲学的な死

 キリスト教での「イエスの磔刑」、北欧神話での「ユグドラシルに吊るされたオーディン」、フリーメイソンでの「棺桶の象徴」、錬金術での「大いなる業」。これらはいずれも「哲学的な死」を象徴しており、「失われぬ威厳」の騎士王も同様の象徴を含みます。なぜなら「賢明なる騎士王」を象徴的にいえば「ダートを知るカヴァリスト(Cavalier)の王」です。「ダート=知識」「騎士=カバリスト」の定義を覚えておりますか?


ダート

セフィロトのダート(Daath)は、隠れたセフィラで、知識や悟り、気づき、神の真意などを意味します。

カヴァリエ

錬金術書で用いられるカバラと呼ばれる言語体系も、古代の知識や中世の騎士、あるいはカバラという騎手の全重量を背負っており秘教的な真理を支えている。 それは「カバリエ / カバラを用いる人」即ち「cavalier / 騎手・ 騎士」の秘密の言語なのである。

アンドレーア・アロマティコ



 ほぼ全ての結社の参入儀礼で説かれる「哲学的な死」。現代的に申し上げれば「人間の精神的変容」であり「啓明」。それは「Ancient Science / 古代科学」から脈々と受け継がれ、大切な教えだからこそどれほど枝葉に分かれようとも変わらず参入儀礼として残っているもの。

 肉体的な死ではなく精神的な死。これまでの概念を滅っし新たな概念へと変容を遂げること。「賢明なる騎士王」の髑髏の姿は、その名と共に「哲学的な死」を象徴します。

 哲学的な死については「アマデウスの魔笛の秘密」に詳しく綴りましたのでそちらを参照して下さい。




・死の象徴

 死の象徴に関するフリーメイソンの一文をご紹介いたします。以下の一文は「哲学的な死」についてとてもよく表されているものですので良く記憶して下さい。

死の象徴は、汝の避けられぬ運命の考察へと誘い、あらゆる学問の中で最も興味深いものへと導く-----汝自身を知ることである。昼の間は、割り当てられた責務を心して果たせ。自然の声に耳を傾けよ。さすればこの朽ち易き構造の中にも死活的かつ不滅の原理があることが解る。それにより、我らが「恐怖の王」を足下に踏みしだくことを「生命の主」がお許しになるという聖なる確信が生まれる。我らは目を上げて輝ける明けの明星を見る。その光は人類の中の信心深き、従順なる者に平穏と救済をもたらすであろう。

「The Secret Power of Masonic Symbols」




・利き手ではない左手の剣


 右利きの王の亡骸を支える”利き手ではない左手の剣”は「燃える剣」であり「セフィロトの通り道」であり、それ自体が「普遍の真理」を象徴しています。「燃える剣」の象徴に関しましては、『Da Vinci Code Reloaded』の128ページ「洗礼者ヨハネ」の項に詳しく綴ってありますので参照してください。



 千年王国が滅び、賢明なる騎士王の存在が忘れ去られ、賢明なる教えも失われると、邪悪な王や司祭が世界を支配するのが常です。その時、人々の常識や価値観が歪められ、左右の区別さえも偽りが教えられるような混乱の世となるでしょう。しかし、そのような時代においても賢明なる者たちの手によって、普遍的な真理が絶えることなく受け継がれていくことを示しているとともに、自分もまた賢明なる王のように普遍の真理を絶やすことなく伝承してゆかねばならぬことも示しています。




・Mementoの「O」

 「死を忘れるな」の警句の「忘れるな」の部分である「Memento」。その「O」の位置は剣と重なっています。この剣がセフィロトを示すことは先にも述べた通り。その視点で剣を見たなら「O」はセフィラに対応していることに気づくでしょう。剣の柄頭と鍔がケテル・コクマー・ビナーで、そのまま順に下ってゆくと、「O」は6のセフィラ「Tiphareth / 太陽」の位置にあります。太陽は毎年、夏至と冬至で復活と死を繰り返します。クリスマス(太陽神の復活祭)が冬至なのも、太陽が死ぬ冬至が過ぎ夏至に向かい復活する理を象徴したもの。賢明なる騎士王が象徴するように時が全てを流し去ったとしても、普遍の真理はいつか必ず復活することを表しています。

 上の如く下も然り、下の如く上もまた然り。

 かつて在りしものは、いつか必ずまた現れる。




まとめ


 本件の象徴画「失われぬ威厳」は、死が避けられないものであることを視覚的に強烈に訴えかけることにより生の儚さ、大切さを観察者に問いかける作品です。一見すると恐ろしい印象の象徴画ですが、物語を理解した上で見ると真逆の印象を受け、儚き生の大切さを再認識することでしょう。

 もしあなたが王だったとしたら、あなたのまわりにはどれほどの髑髏が寄り添っているでしょうか?また、あなたの骸はどれほどの威厳を放っているでしょうか?全ては「刹那の生」の生き様なり。

 そして、その儚き生の運命をどう受け入れ、命ある刹那に何を成すべきかを問いかけているのがこの作品。髑髏の騎士王や忠臣たちを表す数々の髑髏は死を象徴するただの恐ろしい存在ではなく、我々に生の儚さ、美しさ、信頼、またその意義を考えさせる哲学的な象徴として失われぬ威厳を放ち続けます。

Memento Mori

メメント・モリ(羅: memento mori)は、ラテン語の成句で「死を想え」「死を忘るるなかれ」、つまり「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」といった意味の警句。

wiki


 欲求からくる”やりたいこと”ではなく、

 常識からくる”やらなければならないこと”でもなく、

 人として生を受け運命さだめられた”やるべきこと”を”やる”。

 そうしてはじめて、人は安寧を得る。





(イメージ画像です。こんなにデカくありません。)


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 それでは本件はこれにて締めとさせていただきます。あなた様の心にわたくしの警句が届きましたなら引き続きお付き合いをお願いいたします。




作品紹介

新刊:Da Vinci Code Reloaded

デジタルBook:『アマデウスの魔笛の秘密』

デジタルBook:『ヨハネ黙示録 完全解読』

デジタルBook:『Decode of the Matrix』

デジタルBook:『ダヴィンチコードを乗り越えて』

本:『Divine Ratio Re:Decode』

本:『As above So below』


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霜月やよい
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