「改憲バカ」のなれの果て

 少し古い記事ですが、昨年の12月30日に書いたものを転載しています。私自身は大学生の頃から憲法の改正を主張している「改憲派」ですが、平成24年(2012年)に自民党が出した「改憲草案」や、最近になって出てきた「改憲四項目」を読むにつれ、「改憲バカ」と同視されたらたまったものではないと思うようになりました。

 この著者の考えとは相容れない部分はあるが、「『憲法改正』を題目に掲げる改憲議論」に反対するという結論は正しいと考える。
 まず、「相容れない部分」は「八月革命説」と「自主憲法」に関する記述である。
 「八月革命説」は憲法学の大家である宮沢俊義が提唱した学説で、極めて簡単に書くと「ポツダム宣言の受諾と日本国憲法の制定により一種の革命が生じて明治憲法は効力を失い、主権(国政の最終決定権)を有する者が天皇から国民に移った」と説く。ポツダム宣言の受諾と無条件降伏、さらにGHQ民政局が起草した憲法原案を大日本帝国(当時)が「事実上押し付けられ」て日本国憲法が成立した経緯を「革命」という言葉で説明したものである。
法令の解釈に「既存の体制や制度を破壊し、転覆させる」という意味の「革命」を用いるのは無理筋に過ぎる。無条件降伏をした敗戦国である日本がGHQ民政局の「提案」を拒否することは無理だったのは確かであり、「お上(GHQ)から起こされた革命」という現実は否定しようがない。しかし、法令の解釈は従前から積み重ねられてきた解釈を前提になされるべきものであり、「革命」という言葉で「ちゃぶ台返し」をするような説明をするのは筋が悪い。
 自民党が結党時に掲げ、現在も綱領にある「自主憲法の制定」を単なるイデオロギーと切り捨てるのも宜しくない。日本国憲法が制定された経緯を鑑みるに、新たな憲法典を制定する動きを政党や政治家が見せるのは、独立国家である以上は当然のことである。日米安保条約の改定反対運動が激化して内閣が倒れたことに恐れをなした自民党が「経済」に舵を切ったことで、「自主憲法の制定」は死文化した。その50年ほど後に「憲法改正」を党是と宣う人間が総理大臣になるとは誰が想像したであろう。
 前置きが長くなったが、著者が説く「憲法の改正はそれ自体が目的ではなく、現実の政策課題を解決する上で必要な場合に限り、憲法の個別条文を改正するべき」はその通りである。「憲法の解釈や改正は立憲主義に基づいて行うべき」なのも当然であり、安保法制の制定における蛮行に代表される通り、立憲主義や法治主義をまるで理解していない安倍内閣や後継の菅内閣による「改憲議論」など以ての外である。
 山尾志桜里議員が「愚民思考に陥るな」と主張することは理解できないわけではない。しかし、ごく普通の市民が愚民に陥って戦争を煽ってきたのは、古代ギリシャから第二次世界大戦に至るまで繰り返されてきた現実である。民主主義の行き着く先が人治主義と全体主義であることは、ナチスやソ連を見れば明らかである。権力を縛ってその暴走を防ぐことを掲げる立憲主義は、民主主義国家においては主権を持つ国民を「愚民化する恐れがある存在」と捉える。
 「『自分が考えた最強の憲法』を提示し合うだけの空中戦」に執心する山尾議員の姿を見て、「さすが、その通り」と手を叩く人はごく少数であろう。目下の課題である「新型コロナウイルス感染症対策への政策提案」を山尾議員や所属する国民民主党がいまいちできていない、というのが大きいが、それだけではない。「法規範体系を尊重せず横紙破りをする連中と同じ土俵に乗って憲法改正議論をする」という無恥かつ無節操な姿に幻滅した人たちが、私を含め少なからずいるからだと考える。
 衆議院愛知県第7選挙区から事実上追放され、さらに小政党の比例東京ブロックの単独候補になった山尾議員にとって、次の解散総選挙は極めて厳しい戦いになることは言うまでもない。前回の総選挙では「希望の党騒動」における有権者の同情や立憲民主党(旧)による支援、共産党が対立候補を立てない、といったプラス要因が働いたが、今回は一切期待できない。現在の国民民主党の党勢を考えると、選挙区との重複立候補者を含めて東京ブロックで議席を確保するのは難しいと思われる。
 山尾議員が「改憲議論」を焦っているのは、「落選する可能性が高いから今のうちにやっておこう」という意図なのか、本気で当選して「改憲議論」を推進しようとしているのか、よく分からない。しかし、仮に当選したところで、今のような振る舞いをしていたら、「小政党でスタンドプレーばかりする残念な人」のままであろう。自民党からは「操りやすい道化」、主要野党からは「トロイの木馬」として切り捨てられるだけである。
 話が横にそれてしまったが、「『憲法改正』を題目に掲げる改憲議論」は私を含めた国民一般には遠い話であり、広がるはずもない。目の前にある問題や課題の先に憲法の問題があって初めて「改憲」は議題に上がるのであり、またそうでなければならない。「『自分が考えた最強の憲法』を提示し合うだけの空中戦」はもう止めよう。

https://www.newsweekjapan.jp/amp/fujisaki/2020/12/2021.php?page=1&fbclid=IwAR0-FDdkTifXE6e2Qpl5XJglhXcGj9rK29P5Pn5BTQBpDChVhqUOICQuVLo

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