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映画「We Margiela マルジェラと私たち」


ファッションブランド「メゾン・マルタン マルジェラ」で働いていた人たちへのインタビューで構成された映画です。

トップデザイナーだったマルタン氏だけは最後まで登場しません。
どうしてかというと、ある時マルタン氏が
服について語りたかったのに私生活のことを詮索してくるマスコミにご立腹となり
メディアに対し距離を置くと宣言。
かわりにメゾンのスタッフがいろいろな説明をするようになり
「私たちマルジェラは・・・」と語るスタイルになっていった。
だから映画もそのスタイルを踏襲する、ということのようです。

話はまずデザイナーのマルタン・マルジェラと、共同創始者のジェニー・メイレンス
二人で組んで、コレクションを発表しよう
となったところから始まります。

最初のショーの準備に1年くらいかかったそうです。

ショーを見た人の反応は「大好きか、大嫌いか、どちらか」
「どちらでもないとか、曖昧な反応はなかった」

あれ?私ああいう服「べつに好きでも嫌いでもない」なんだけどな・・・
マルジェラが登場した80年代の終わり当時には、
そのくらい斬新なものだったということなのでしょう。
婦人服の既成概念を打ち壊し、新しい女性像を打ち立てたといいます。
グランジファッションの先駆けとなったようです。


感銘を受け、一緒に働くことになった関係者たちによると、


「マルジェラのモデルは、グラマーじゃないし、完璧に美しくもない。年配のモデルも積極的に採用した」


「見た瞬間すごくしっくりきた。だって他のブランドは競って超越した美しくて華やかな女性像を見せようとしているけど、自分の身近にいる、自分が知っている女性はこういうものだったから・・・」


「街を歩いている女性の容姿を見ればわかる通り、女性は普通、女性的な面と男性的な面を両方持っている。(マルジェラの服は奇抜だったりラフだったりしたが)逆にそれが女らしさを際立たせた」


「誰もが自分に自信があるわけじゃないだろ?私はブスで目立たない、そう思っている女性たちがマルジェラの服を着ると輝きだすんだ。それを目の当たりにした」


マルタンはとてもクリエイティブで、豊かな発想の持ち主。
その製作スタイルは、最初に全部決めずに作りながら改良を重ねてゆくというもの。
周囲も「あの人は天才」と言って、彼のデザインに惚れこんでいた。
そんな彼のもとに集まったスタッフは
「お金や出世には何の興味もない人たちで、ただ自分の仕事を愛していた」
「合う人は合うし、合わない人は即辞めていった」


新鋭ブランドとしての順調な滑り出し・・・
勤勉で優秀で、ブランドへの愛で結ばれたすばらしい仲間たち・・・
まさに理想の起業の形のようにも見えるのですが

天は二物を与えずなのか
マルタン、ビジネスへの興味も才覚もゼロだったそうで

最後の方でメイレンス氏が語っていた
トップデザイナーのマルタンでさえ「設立当初からずっと最低賃金で働いていた」
「忙しくて休みもない」「時間もないし金もないので、仕事以外に何もできなかっただろう」
という言葉は、哀しみを誘います。


「売上金は次のコレクションを作るための資金として消えてゆく」
「会社が大きくなるにつれ、運営しきれなくなった。私(メイレンス)は60歳近くなり、父の死や自分の病気のこともあり疲れ果てていた」

ということで、最終的に「メゾン・マルタン マルジェラ」は売却されることに。

<いわば『遊びの時間は終わり』だった>

斬新で尖った服を作り続け、一部の人から熱狂的に支持されたマルジェラですが
会社を運営していくためには、知名度を上げ、より広く大衆に受け入れられるように方向を変えざるを得なくなった。
個性的な顔立ちのモデルは減り、一般的な意味で綺麗な人が多くなっていった・・・

ジェニー・メイレンスは売却後に静かに会社を去り
マルタンも唐突に辞めてしまったそうです。

「クリエイティブな人間は、機械にはなれないものです。
組織の歯車として同じようなものを大量生産なんてできないのだろう」

その言葉はとても印象的で。
ハンドメイドでもイラストでも、
「似てるけどちょっと違う」程度のものを、素早く大量に生産できる人がネットでも人気になれるし、組織でも需要があるのだと思う。
でもそれって、とても難しいことなんですよね。
魂を殺して製造機に徹するくらいじゃなきゃできない。
誰に命じられたわけでもないのに素でそれができちゃう人がいるのは事実ですが。
ただ、できなくても仕方ないよね、とも思う。機械じゃないんだもん。
たとえば何か一つの事や一つの型をずっと続けなきゃ、じゃなくて
ワンシーズンの「コレクション」くらいに考えるのがちょうど良いかもしれない。


私が服飾系の学校で学んでいた頃
それと前後して起業ブームが起きていました。
この映画は小さなチームから始めて世界的に有名になったブランドの話なので、
起業といっても本当に稀有な成功例だと思うのですが
こんな華やかな世界の成功者でも、長くやっていくうちにはいろいろな事があって最終的にはこのようなことになるのか・・・
という事を見ることができました。

テレビやネットや雑誌記事は、取材と言っても宣伝広告としての意味も強いですから
それぞれのクリエイターやアーティストの「一番輝いている一瞬を小さく切り取った断片」しか見えません。
大きな流れを見るにはやはり、映画一本や本一冊くらいにまとめられたものでないとだめで・・・
だから現在進行形のことだけじゃなくて
過去の歴史を学ぶのも良いことですね(・∀・)ウン!!

知れば知るほど「羨ましい」という気持ちは消えて行きます。

でも「社交的ではないが穏やかで親切だった」と伝えられるマルタンや
メゾンでいっしょうけんめい働いていた人たちの純粋さは伝わって来たし、
たとえ金銭的にリッチじゃなかったとしても、
かけがえのない充実した時間
輝いていた時間は、きっとあったと思う✨

そしてこれは
「会社が大きくなるにつれていろいろ問題が生じて」ということだったので
最初から「少人数で小さく運営していく」とはっきり決めていたなら
無理して大衆に迎合する必要もない
最初の「とことん愛されるか嫌われるかどちらかだった」という状態のままでもよかったのでは・・・?
いや、徐々に拡大していかないとそれはそれで最終的には行き詰まるのかもしれませんが・・・

または、新ブランドを立ち上げるだけ立ち上げて
軌道に乗ったらすぐ売却して、また新しいのを創設して・・・
という働き方も、常に新鮮でいたいクリエイターにはアリなんじゃないかな?
なんて考えたりしました。

おもしろかった♪

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