ネオンウルフ

「サッカー部でーす!入りませんかー!」「バスケ楽しいよ!」
そんな部活勧誘の声が響く光谷高校を、俺、市川音は進んでいた。
趣味は人それぞれ違って良い。
でも部活となると話は別である。運動部か文化部か、そんな些細なことでも人は優劣をつけ分類する。趣味を押し通してでも文化部を選ぶ人はそれこそ陽キャだと俺は思うが。ちなみに俺も陽キャという種族に属している。世間的には、だが。
「市川は部活どーすんの?」
「俺は入るつもり無いよ。バイトしたいから。彼女と同じ大学入りたいし、お金ためないとね。」
「へー。さすがだな」
嘘である。
「そう言う会田はどうすんだよ?」
「俺も部活とかやりたくないなー。でもシズがさー、"私もマネやるからバスケやろう!"とか言ってくるからバスケ部にするわ。マネ姿見たいし。」
「ラブラブだな、お前ら。」
「またまたー!お前もさらっと彼女のためにバイトするとか言ってたくせに~」
何度も言うようだが嘘である。
「じゃあまた明日な!」
「おう、またな。」
そう言って別れ、姿が見えなくなると家に向かって一目散に走り出した。
何てったって今日は17時からイベントがあるのだから。それまでにやることがたくさんある。家に着き手を洗うと冷蔵庫から三ッ矢サイダーをだし、直ぐに自室のパソコンの前に座る。電源をつけ、パスワードをなれた手つきで入力してヘッドフォンをつければ、準備は完璧だ。そして、一つのソフトをクリックした。画面が暗転したと思えば、タイトルロゴが写る。
" Chivalry of the Night"
直訳すると夜の騎士。世界中で愛される人気ゲームソフトだ。このゲームの特徴は武器の自由度が高いことだろう。騎士と言いつつも普通にガトリングガンが使える。そんなゲームである。
俺はこのゲームを彼女と呼ぶくらいにはやり込み、課金し、
俺はいつも使っている黒髪碧眼のアバターを選び黒の装備を着て、okボタンを押す。リスポーンした場所で今回のイベント内容を確認すると自然とため息がでる。
"二名でチームを組み、敵を討伐する。"
たったそれだけなのに、俺は憂鬱でならない。
ただでさえ学校でばれないように振る舞っているのにここで同じ学校の生徒にでもバレたら意味がない。何のためにフレンドを兄しか作らずやって来たのか…
だが、今回の報酬がこのゲームで最もかっこいい装備といわれるネオンリビアなのだ。あまり服には興味がない俺でも欲しい。高く売ることも可能だし、持っていて損はない。性能も良い。それに今まで二人で攻略するイベントがなかったということを加味すると、相手は余程強力なのだろう。
ということで俺はうまいことレベルの高い相手を見つけなければいけない。大丈夫だ。俺のクラスの陽キャたちは彼女とデートなりバイトなりしているだろう。よって多分大丈夫。俺は後にこの判断を後悔することとなる。俺のレベルが全体平均よりも23高い56なのだからなるべくそのレベル帯のプレイヤーを探したい。そう思い、広場をうろついていると一人のプレイヤーを見つけた。レベル54、ピンクの髪にピンクの瞳のレアアバター、俺の装備の白い色違いを着たプレイヤーがいた。こいつも相当やり込んでいる。この人にしようと久しぶりにボイチャをいれ声をかけた。
「すみません、お一人ですか?」
「そうだけど。」
「俺と一緒に組みませんか。」
「いいよ、俺も一人だったし。」
そう言うとチーム申請画面を出した。俺も直ぐに出すと即座に結成された。名前を見ると
"Kaede"
とあった。
「宜しくお願いします、Kaedeさん。」
「ヨロシクね、onくん。あと戦闘時面倒だしタメ口で良いよ。
「うん」
その会話を交わすとイベントが始まった。広場の人間は全員持ち場にリスポーンした。これは"Chivalry of the Night"名物の一つイベントクエストだ。自分の持ち場に次々リスポーンしてくるcpuを倒し一定数倒すとボスが出てくるという単純なものだ。イベントの場合はどの武器か、どのレベルかなどわからないことが多く、練習で使用されるクエストモードとはだいぶ違う。
「さ、始めよっか。」
そう言うとKaedeはアサルトを取り出し、敵を撃ち始めた。「雑魚は任せて良いか?」
「ん。」
一体一体は楽なので雑魚は連射に長けたアサルトで倒してもらいボスに備えランチャーを装備する。
「玉持ってる?」
「はい」
「さんきゅ」
Kaedeの補助をしながら、俺は常時表示にしてあるモンスターの座標を見つめていた。
ボスと雑魚のリスポーン先には関連性があり、毎度その規則は異なるため、自ら見極めることが必要である。この法則は一部のユーザーが知っているものではあるが、敵に倒されないよう短時間で見極めつつ倒すことが難しい。だからクエストはアサルトでスピードゴリ押し戦法が主流になっている。なので極たまに運営側が出してくる知能で攻めるタイプのクエストはアイテム取得率が低くなっていたりする。
そのはずなのだが、生憎俺はアサルトが苦手だった。だから一発の威力が大きいランチャーでリス先狙い撃ちをするしかなかったのだ。
(今日は…積48縛りか。それに2の倍数と3の倍数が交互に出てくんのね。ボスは大体5×5サイズ位だな。ということは、)
そこか!
撃破数、ちょうど240。経過時間3:39、ボスが登場する。
俺はそれと同時に、ボスの顔面を撃ち抜く。
「ナイスゥ!」
「撃っといて!」
Kaedeにそう指示し、ランチャーに玉を詰める。
「ok?」
「決めるわ。」
そう言って俺は玉を当てていく。4発当てたところで、ボスはネオンリビアをドロップした。
「ナイスエイム!」
「そんなことねぇよ。」
「Kaedeが撃っといてくれたからだろ。ありがと」
「こっちこそ!やっとネオンリビアゲットしたわー。」
そう言うと楓はこんなことを持ち出してきた。
「ねぇ、フレンドならない?」
「え、何て?」
「だから、フレンドなろ!」
「理由は?」
「なんとなく?」
「は?」
「うそうそ、予測法使ったっしょ?いくら二人とはいえIQ高くないと出来ないって。俺と一緒だったら敵無しっしょ!」
(確かにエイム良いよな、こいつ。利点は大きいな。言い分は理解できるし。)
「俺毎日17時からできるし、フレンドイベントって良いのあるよ。」
(俺の苦手なクエストは任せられるもんな、)
「わかった。フレンド、なってやるよ。 」
「いぇーい!じゃ、フレンド交換しよ。」
そう言ってメニューを開きフレンド交換を済ます。
「じゃ、これからもヨロシクね、市川音くん!」
「えっ、」
「市川くんでしょ、光谷高校1年2組。」
「何で、」
「俺同じクラスだし。でも俺影薄いから誰かはわかんないだろうけどね。」
そう言うと彼は自分の名を名乗った。
「俺は水樹楓馬。一応隣の席なんだけどね。」
「市川くん、いや、もう音でいいよね。俺たちの部に入らない?」

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