3つの味よ #4
「おはよう〜。あれ?姫奈、どうしたの?」
朝、教室に着いたアルノの目に入ったのは、机の上で伏せて動かない姫奈。その前の席に座っていた瑛紗が答える。
「昨日の補習で課題が出て、夜遅くまでやっても終わらなかったんだって。私が手伝ってあげて、いま終わったところ」
「瑛紗ありがと〜〜疲れた〜〜眠い〜〜…」
「これでお昼休みも放課後も補習あるって…どんだけなの」
「姫奈は補習常連だから、特別メニューらしいよ」
「まだ2日目だけど、もうやだ〜〜…」
お昼休み。姫奈は昼食も補習の教室でとるので、アルノと瑛紗の2人で食べている。
「なんか…静かだよね。姫奈がいないと」
「たぶん、クラス中がそう思ってそう」
「私ら3人が同じクラスになってから、よりうるさくなったって言われたことあるし」
「みんな、静かで嬉しさ半分、寂しさ半分って感じ?」
「ねぇ!何でも部!」
「え?奈央?」
「あれ?そっか…姫奈はお昼休みも補習か…」
「慌ててどうかしたの?」
「ごめん、2人とも食べ終わったら4組に来てくれない?」
4組の教室に来たアルノと瑛紗を迎えたのは、いつも仲良しの冨里奈央と五百城茉央。
「で、どうしたの?何か困りごと?」
「実は…茉央の写真集がなくなっちゃったの」
「茉央の写真集?」
「写真集を学校に持ってきてたの?茉央が?意外だね」
「違うの。私が作った、茉央の写真集」
「え?」「作った?」
「そう。奈央が、カメラで私のこと何百枚も撮ってくれて、それを写真集にまとめて、製本までしてくれたんよ」
「あぁ…なるほどね」
「カメラにハマってるって言ってたけどそこまでとは…」
「昨日出来上がって、いろんな人に見せたんだけど、その噂を聞いてさっきクラスの子が見たいって言ってくれたから、見せようとしたの。そしたら、カバンからなくなってたの!カバンの中に入れてたはずなのに…」
「家に置いてきたんじゃないの?」
「親に見られたら恥ずかしいから、カバンの中から出さなかったんだよね」
「恥ずかしいのはうちやけどね…」
「仲良い人にだけ見せようと思ってたから、今日の朝とか休み時間もカバンから出さずに入れっぱなしにしてたはずなの。昨日の放課後まではちゃんとあったから、今日の朝からお昼休みまでの間に、誰かに盗まれたとしか思えないの!茉央はかわいいし、写真集の噂を聞いた誰かが持ってっちゃったんだよ、きっと」
「先生には言ったの?なくなったこと」
「言えないよ!茉央の写真集作ったってことも話さなきゃいけなくなるし」
「そっか…そうだよね」
「クラスのみんなに呼びかけたりとかは?」
「それは、茉央がね…」
「写真集作ってもらったってなんか恥ずかしくて…。仲良い人にだけ見せてってお願いしたのもうちやし」
「私が見せてあげたのに、なくしたとか、盗ってない?とか、みんなに言いにくくて…。2人で、なんとか探してくれないかな?」
「じゃあ…奈央がその写真集を見せた人を、ピックアップしてくれる?」
「うん…わかった、メモするね」
「これで全部?」
「うん…。あとは…う〜ん…ちょっと曖昧かも」
「そっか…他のクラスもあわせてまぁまぁいるね」
「よし。何でも部、調査開始!」
「お昼休み、もう終わるね…」
「うん。アルノはどのくらい進んだ?」
「まだ3人。でもその3人もまた別の人に言ってたみたいで…」
「こっちもそんな感じ。進捗は芳しくないね」
「フットワークの姫奈がいないからね…痛手だ」
「他の部活が入部断る気持ちがわかった気がする。私たちはただでさえ3人だけだし。ま、私たちは絶対見放さないけどね」
「あ、姫奈戻ってきた」
「補習終わったよ〜…放課後もあるけど」
「姫奈の大変さに比べたら、私らなんて全然か」
「え?2人何かあったの?あ、困りごと案件?」
「うん、そう」
「あ、アルノ、姫奈には聞かせないようにしよう。悪いけど、補習に集中してもらう」
「そっか。課題とか試験とかちゃんとやらないと、補習が長引いちゃうかもしれないんだっけ」
「そう。模範囚になって、早く復帰してもらうために」
「人を何だと思ってるの〜〜…疲れた…」
放課後。2人での調査は続く。
「全然捗らないや…瑛紗の方はどうだろ?私と同じかな…」
「あ、アルノ」
「和」
「もしかして、何でも部の活動?」
「うん。姫奈が補習に行ってて2人しかいなくて、あんまり捗ってないんだけどね」
「そっか…大変だよね、メンバーが欠けると。特に3人は、仲良いからこそね」
「うん。まぁ、姫奈が暴走することがないのはいいことだけど」
「そういえば、幽霊の噂を消してくれたの、何でも部なんでしょ?私の帰り道じゃないけど、怖いなって思ってたんだ。助かったよ」
「ほんと?よかった。もし和も何かあれば、何でもご用命お待ちしてますよ」
「うん。ありがとう。何かあったかな…」
「ふふ、咲月がいないと、こんな話できちゃうね」
「あはは、そうだね」
「咲月は?」
「咲月は…えっと、用事があるみたいで」
「そっか。じゃあ、和はこれから部活?」
「うん。お互い頑張ろうね」
「うん、また明日」
そして、翌日の放課後。
「2日間かかって、噂の流れの全貌は掴めた気がするけど…写真集は見つからない」
「みんな盗むようなことしなさそうだし、もしかしたらって人には鎌かけてみたけど、なさそうだったね」
「となると、残るは…」
「誰?」
「生徒会」
「生徒会?」
「生徒会が噂を聞いて、奈央のカバンから勝手に没収した。生徒会に言った人は、後ろめたくてそれを隠している。池田一少女、謎はすべて解けた…じっちゃんの」
「ちょっと待ってよ。和は絶対ないだろうし、厳しい咲月だってそんなことしないでしょ」
「そうだよね…それなら…てけてん!そうだったのか…!」
「何?」
「やっぱり、奈央が家に忘れてきたんだよ。机の引き出し、本棚の中、ベッドの裏側、全部探せばどこかにあるはず。名探偵テレサ!真実は、いつも」
「待ってってば。さすがに奈央も、家は何回も探してるでしょ」
「ん〜〜、でも、校内であり得そうな人たちみんなに聞いたんだよ?いろはの時と同じだって。灯台下暗し、実は奈央が持ってたってオチだよ。きっと」
「でも、ほんとは家にあるんじゃないの?って奈央には言いにくいし、いろはの時みたいに忍び込めはしないし…あ」
「何?もしかして、ひらめいた?」
「灯台、下暗し…?」
「え?だから、奈央が持ってるんだよ、たぶん」
「そうだよ!灯台下暗しだ!瑛紗、まだ放課後残れる?」
「うん、いいけど…」
「あれ?2人とも帰ってなかったの?」
「姫奈を待ってたの」
「えぇ?何かあった?」
「姫奈、もしかして、奈央が作った茉央の写真集持ってるんじゃない?」
「え?持ってるけど?」
「やっぱり…」「姫奈だったんだ…」
「何?え、もしかして見たかった?順番待ちだった?ごめん〜言ってよ」
「順番待ちではないけど、姫奈が持ってるかもって思ったのはさっきでさ。奈央も姫奈も放課後に補習があって、姫奈も被写体をやるって話だったじゃん?その話の流れで、補習の前とかに写真集の話をして姫奈に見せて、姫奈がそのまま持って帰ったんじゃないかなって思って」
「灯台下暗しは私たちだったのか…」
「え?そのとおりだけど…奈央には許可取ったよ?」
「うん、その奈央が忘れてたんだよ。いろんな人に見せて、誰に見せたか曖昧になってたみたいだから。明日返せばいっか」
「一昨日借りて、帰ってから写真集見てたら、見るの止まらなくなっちゃってさ〜。つい借りっぱなしに…」
「それで昨日の朝、課題が終わってなかったんだ…」
「ごめん!もしかして、写真集探すのが困りごとの依頼だったの?」
「うん。よかった、解決できて」
「じゃあ、また実績に書けるじゃん!」
「「書けるか!」」
「なんで?」
「何でも部の部員が持ってました、なんて自作自演に思われるじゃん」
「それに、茉央の写真集のことは先生には言えないし」
「えぇ〜そっか…でもさ、前の彩と美空のやつ、先生に報告しても何っにも言われなかったじゃん!無言で申請書返してきてさ。だから、今回のも入れておこうよ」
「ダメ。奈央たちのためでもあり、私たちのためにも」
「残念だけど、部の設立はもう少し先かな…」
「なんだ〜…」
「姫奈がいない分、大変だったんだよ」
「そうだよ、2人だけで地道な調査をしてたんだから」
「そうでしょそうでしょ〜。ごめんね、もう少しで終わるから。そうすれば、部長も復帰できます」
「しれっと部長を名乗らないで」
「その前に、まず部活の認可だよ」
「そっか…先生の先には生徒会もいるし。あ、そうだ!良いこと思いついた!」
「姫奈が良いことを?何だろう」
「一周回って面白そう」
「なんで一周?まぁ、いいや。聞いて!困りごと案件を、相談を受ける前にこっちから解決しに行っちゃおうよ」
「そっか、それもいいかもね」
「誰か、姫奈のまわりに困ってる人でもいたの?」
「それがね…」