3つの味よ #5

中間試験の補習が終わって、しばらくして…
コンコン
「はい、どうぞ?」
「「「失礼しまーす」」」
「え?何、あんたたち!勝手に入ってこないでよ!」
「今、和がどうぞって」
「部外者が生徒会室にずかずか入ってきていいわけないでしょ。しかも今、会議中だったんだけど」
黒板には「会議」と書いてあったが、それ以外は空白だった。
「何も書いてないよ?」
「それにさっちゃん今、お菓子食べてなかった〜?」
「ぐっ…!」
「1年生の書記と会計の子が来るまで休憩中だったの。何?」
「本日は、そちらの菅原咲月さんにお話が」
「な…何?部活の申請なら預かるけど、まぁたぶん認められないでしょうね」
「違います〜。こちらの学年成績1位の池田瑛紗様が、菅原咲月様に勉強を教えてあげようと、ご提案をなしてあられ…何だっけ」
「…勉強?」
「いいよ、姫奈。普通に喋って」
「聞いたところによると、咲月も姫奈と同じく、補習を受けてたとか」
「ぐぐっ…!」
「うん。それで生徒会できない日があって…」
「和!」
「あ…ごめん」
「どう?咲月」
「ほっといて!教えてもらわなくてけっこう」
「ほんとに〜?」
「ほんとは教えてほしいんじゃないの?」
「なんでよ?」
「期末試験も補習だったら大変だよね〜」
「今のうちから対策しないと〜」
「うるさい!私は私で勉強します、してます!期末はあんなことにはならないんだから!さよなら!」
バタン!
「閉め出されちゃった…」

生徒会室内。
「はぁ…今回の中間ヤバくて、せっかく事前に和に頼んで、補習対象者の張り紙を張らないように先生にお願いしてもらってたけど、普通に補習に姫奈がいるんだった。あの3人に弱み握られたくなかったな…」
「私もアルノに言わないようにはしてたんだけど、意味なかったね。でも、姫奈も補習受けてたんだし、弱みってほどじゃ」
「姫奈と一緒にしないでよ!ただでさえ生徒会副会長なんだから、補習受けてたのバレるのは恥なの!あの3人に言いふらされたらどうしよう…」
「そんなことしないよ」
「いやいや、わかんないよ。言いふらされたくなかったら…って脅迫してきたりして」
「そんなわけないってば。それにさっきは、わざわざ勉強の話をしにきたんだし。教えてあげるよって」
「それも、私に恩を売って、部活を認めさせる魂胆でしょ?その手には乗らないんだから」

教室に戻る途中の3人。
「まぁ、ああなるよね」
「素直じゃないよね〜」
「でも、どうしようね。せっかく姫奈が思いついた、生徒会の咲月に恩を売る作戦なのに」
「そう、珍しく姫奈が良い思いつきしたのに」
「珍しくないよ。瑛紗は頭良いだけじゃなくて、教えるのも上手いから、思いついたの。それで、咲月のことを助ければ、部の設立のための実績になる!って案だったのに」
「この前のは、奈央と茉央から感謝はされたけど、実績にはできなかったし」
「そうそう、2学期中に部活作るためには、次こそ実績がほしいのに」
「今回の作戦は結果が期末試験後だから、失敗したら終わりのバクチでもあるし、確実な実績にするために咲月をなんとか丸め込まないと」
「まぁ、実績のことも大事だけど、生徒会ができなくなるのは和が可哀想だよね。…ん?実績?」
「あれ?もう?」
「アルノが、ひらめく?」
「そうだよ!実績だよ!実績を作ろう!」
「うん、だから」
「さっきそのために行ったのに断られたんじゃん」
「違くて…えっと、実績を作るために実績を作る。実績のための実績!」
「何それ?」
「どういうこと?」
「今すぐ教室に戻ろう!2人とも、お昼休みも放課後も空いてるよね?」


1週間後。
コンコン
「どうぞ」
「「「失礼しまーす」」」
「な、に、か、よ、う?」
「本日も菅原咲月さんに用が」
「勉強のことならお断りしたはずですけど?」
「先週、英語の豆テストありましたよね?何点でした?」
「それが、何?」
「答えられない点数だったってことですね?」
「答えられますけど?10点です」
「20点満点で10点か…」
「思ってたよりまぁまぁだったね」
「ほんとに勉強してたみたいだね」
「聞こえてますけど?嫌味なら外で言って?」
「うん。この前、姫奈と瑛紗に煽られてから、私と一緒に勉強してたの。だから前よりは…」
「和〜…!」
「う…ごめん」
「勉強してもこの点数ってことね?」
「はぁ〜?姫奈には言われたくない!」
「姫奈、見せてあげてよ」
「じゃん!どうだ!」
「え…17点!?」
「すご…!」
「なんでこんな点数を取れたと思います?瑛紗とアルノに、休み時間も放課後もみっちりしつこく教えてもらったからです」
「一言多い」
「アルノもなの?」
「うん。教えるっていうよりも、みんなで勉強するって感じで、楽しかったよ」
「へぇ…私も一人で勉強するより、咲月とここで勉強した方が楽しかったし、成績良かった」
「ここで?生徒会室で勉強?」
「普段お昼休みは生徒会ないから、ここで2人で食べたり、たまに勉強したりしてるの。1年生は遠慮してあんまり来ないし、けっこう私たちが自由に使ってるんだ」
「あ!じゃあ、ここでみんなで勉強すれば」
「ダメ!部外者が使っていいわけないじゃん!生徒会の資料もたくさんあるのに」
「綺麗に片付けておけば…いいんじゃないかな。静かで集中できるし。私たちが先生に言っておけば」
「なんで和はそっち派なの!?とにかく、けっこうです!」
「瑛紗とアルノと一緒に勉強すれば、0点が17点になるんですよ〜?」
「前回0点だったんだ…」
「いらない!帰って!」
バタン!!
「相変わらずか…」
「でも、3対2かと思ってたけど、4対1っぽかったよね?」
「うん、あとはそっとしといてもいいかも」

「まったく…何考えてんだか」
「ねぇ、咲月。みんなで勉強しようよ」
「だから、あの3人に貸しを作るみたいで嫌なの!貸し作ったところで部活は認めないけど!」
「なんで認めたくないの?」
「どうせ、大したことやらないまま活動しなくなるんだよ。それならコンピュータ部と同じじゃん」
「そんなことないと思うけどな…。それに勉強ってさ、みんなで補い合えば楽しいよ。この前もそうだったじゃん」
「でも…」
「次の期末、姫奈に負けてもいいの?」
「そ、それだけは…」
「まだ廊下にいるかもよ、何でも部」
「ぬ〜〜っ…。…和から、頼んでくれる…?」


「期末試験までの間、和から先生に頼んでもらって、私たち限定で生徒会室を勉強会場に使えることになりました!」
「和の普段の行いのおかげ」
「私は全然だよ」
「まぁ、和がどうしてもっていうから、付き合ってあげなくもないよ」
「ほんとは咲月が和にお願いしたんでしょ?」
「和!言ったの!?」
「言ってないよ」
「やっぱりそうなんだ」
「くっ…!はめたな!?」
「さっちゃんも私のところまで上がってきてから偉そうにして?」
「豆テストで17点取っただけで上から言わないでよ!」
「静かに!せっかくの勉強会の時間がなくなっちゃう!始めるよ」
コンコン
「どうぞ〜」
「失礼します〜。ここでいいんだよね?」
「あ、みんないる〜」
「いろはと桜も来た。まだ椅子出してなかった、待ってて」
「え?なんで?」
「私が呼んだの。せっかくだからみんなでやった方がいいでしょ。和には言ってあるよ」
「私も彩のこと呼んだ〜。たぶん美空もくっついてくる」
「私も奈央と茉央呼んだからもうそろ来るよ」
「和〜…!」
「あ…いいじゃん!みんなでの方が」
「いくらなんでも11人は多いでしょ!」
「この中で唯一補習だったら恥ずかしいですよね〜、副会長さん」
「うるさい!姫奈に負けるわけないでしょ!」



「なるほど、仲良し11人で勉強して、補習を回避しましたって話ね」
「そ、その言い方だと…そうですけど」
「はい」
「また突っ返された…」
「このままじゃ2学期終わっちゃう…え?」
「サインしたよ」
「「「ありがとうございます!!」」」
「今回は生徒会に付け入ったってことだけじゃなくて、実績が点数で目に見えるのが良かったな。やるじゃない。全員が全員、点数伸びるってすごいな。岡本なんて、このために今まで低い点取って補習受けてたんじゃないかってくらい伸びてたし。あとは生徒会だよな〜…まぁ、たぶん大丈夫だと思うけど…って、いない!」


「ねぇ〜。生徒会室、誰もいないよ」
「姫奈、足速いよ…」
「はぁ…はぁ…今日は生徒会ない日なんだね。2人が部活してるところいくのもなんだし、明日にしよっか」
「そうだね…勉強頑張った疲れが今頃きてるし〜…今日は帰って休も」
「たしかに…あんなに勉強したの初めてかも」
「今回は特に2人が頑張ったよね。瑛紗は全員分の勉強見てくれたし、姫奈は家でもずっと頑張ったんでしょ?私は今回も偉そうに仕切ってただけだし」
「アルノもようやく自覚したか」
「そうそう、いつもそうだよ。アルノが指示して、頑張ってるの私たちだよ〜」
「うん、わかってる。じゃあ、また明日ね」


「ねぇ、瑛紗。部活のこと」
「あ、たぶん同じこと思ってる」
「部長は…言わなくてもわかるか」
「意義なし」


アルノが一人帰ろうと昇降口を出た時、和に呼び止められる。
「あ…アルノ!」
「和。これから部活?」
「うん。部活の件、どうなった?」
「さっき、先生から許可もらったよ。明日、生徒会に提出するから」
「え、すごい!おめでとう!」
「ありがとう。でも、まだだよ?」
「私はもう認めてるし、咲月も大丈夫だと思う。咲月、今回の試験で全教科良くなってて、補習もなくて喜んでたし」
「それなら良かった。勉強会、楽しかったね」
「うん。アルノと一緒にいれて…楽しかった」
「和…どうかした?」
「あの…実はね」
「うん」
「部活動に必ず所属するって規則作ったの、実は、アルノに合唱部に入ってほしかったからなの!」
「えぇ??」
「アルノが部活入らないで、瑛紗と姫奈と楽しそうに仲良くしてるの見て…正直、嫉妬してた。羨ましかった。だから、全員が部活に入る規則にすれば、3人はバラバラの部に入ると思って」
「和…」
「でも、3人で部活立ち上げるって聞いてびっくりした。最初は、私たち生徒会が認めなきゃいいだけの話だって思ってたけど、やっぱり3人は楽しそうで、でも嫉妬とかはなくなってって、良いなぁって感じで見てたんだ。アルノ、キラキラしてた。私なんかより」
「え…そんな」
「それで…その…前からずっと言いたかったことがあったんだ」
「…え?」


この様子を柱の陰から見ていたのは…
「瑛紗、これってもしかして…」
「告白だよ、愛の告白!和はアルノのこと、ずっと見てたもんね〜」
「そんなわけないじゃん。和のことだから、『これからも仲良くしてね』とかじゃない?」
「ってかなんで咲月もここにいるの?」
「部活は?生徒会は?」
「いいの!いま大事なとこじゃん」
「やっぱり咲月も告白だって思ってるんじゃん〜」
「ねぇ、和が付き合ってって言ったら、アルノは何て答えるかな?」
「『友達としてだよね』とかとぼけそう」
「いや、そのまま和をハグして」
「えぇ!何それ!見たい!」
「姫奈、静かに!」


「私、アルノのことを…ずっと見てたの。部活設立の様子を監視するってわけじゃなくてね。私は、歌ってる時のアルノが一番好きだったんだけど、それ以上に笑ったり、考えたり、怒ったり、いろいろ頑張ってるアルノのことも好きになったんだ。それで思ったのが、何でも部の活動がすごく楽しそうだなって。それでね…」
「うん?」
「何でも部ができたら、その…私も」
「「「ちょっと待ったー!!!」」」
「びっくりした…2人とも帰ったんじゃなかったの?」
「咲月、部活に行ったんじゃなかったの?」
「アルノ、何してんの!勝手に部員増やそうとして」
「そうだよ!生徒会は敵みたいなもんだよ」
「私は何も…」
「和!何ぬけがけしてんの!」
「いや…だって」
「咲月さん?"ぬけがけ"ってことは、咲月さんも何でも部に入りたいってことですか?」
「そ…そうは言ってないでしょ!?」
「言ったも同然だよ」
「それに、和!あんた、校則わかってないの?」
「え?あ…兼部がダメなの、忘れてた…」
「そうじゃん」「そういえば」「そうなの?」
「生徒会長が何してんの…」
「え…じゃあ、次の総会で改正を」
「和〜!」
「何それ、ずるい!」
「公私混同、職権濫用!」
「あはは。和、気持ちは嬉しいよ」
「アルノ…」
「でも、どうしようかな…いろはと桜にも入りたいって言われてるんだよね」
「アルノも?私も彩に言われたよ。彩を入れたら、美空も絶対ついてくると思う」
「だと思った〜。私も奈央と茉央に言われてるし」
「えぇ…何でも部、すごいね」
「すごくないよ!まだ設立してないし!」
「でも咲月、認めるでしょ?」
「うぐっ…!」
「でも、どうしようね?みんなを入れたら一気に部員が11人になっちゃう」
「聞こえてますけど?何、11人って。私は入りたいなんて言ってませんけど?」
「入れるなら、まずいろはを優先して入れたいんだよね。何でも部に入るなら吹奏楽部辞めてもいいって言ってたくらいでさ」
「えぇ〜!それはもったいないよ!」
「うん、ここはやっぱり、生徒会にお願いして兼部OKにしてもらおう」
「ね、ね、ね、兼部OKにしたら、私も入れてくれる?」
「和!」
「咲月も入りたいっていうなら考えてあげてもいいけど?」
「どうしても入ってほしいっていうなら考えてあげてもいいけど?」
「私はいい?よね?ね」
「アルノ、どうするの」
「アルノ、決めてよ」
「ん〜…じゃあ、話し合おっか。11人で!」








そして11人は、少しずつ…
というのは、また別のお話。








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3人を主人公にしよう、学校ものにしようというところから、乃木坂が主演した某漫画原作のドラマ・映画のあの世界観に憧れて、新たな部の設立というところをテーマに決めた。決めてからというもの、ストーリーやセリフは、脳内にいる彼女たちが勝手にどんどん動いて喋って進めていった。この状況ならこうするかなこう言うかなということを、ほとんど考えることのないまま、頭の中でどんどん進んでいく展開、その光景をそのまま書き起こしていただけ、というのは初めての感覚だった。新しい世界、だった。

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