プレゼントの才能
わたしは破滅的にプレゼントの才能がない。
世の中には、気の利いたプレゼントを、何でもないことのようにさりげなく渡す人がいる。
喜んでもらえて、タイミングにふさわしく、洒落ているけど受け取るほうの負担にならない、
そんな素敵なプレゼントができる人にわたしもなりたい。
好みに合うだろうか、邪魔にならないだろうか、嫌味にならないだろうか、押し付けにならないだろうか、
みたいなことをぐるぐるぐるぐる考えているうちに、どんどん迷子になっていって、
疲れ果てて、とんでもなく無難なものになってしまう。
渡すのを断念してしまったことさえある。
先月の自分の誕生日に、会社の先輩(女性)2人がプレゼントをくれてしまった。
これはまた別の記事に書くつもりだけど、わたしはそもそも誕生日とかクリスマスとかお正月とか、そういったイベントや祝い事に関心がなく、
誕生日だからとプレゼントを贈りあうのも今一つしっくりこないところがある。
わたしには、「おめでとう」が欠けている。
でも、大して社交的でもないわたしにわざわざ誕生日プレゼントをくれるというのは、
この職場に受け入れようとしてくれているのかなあと思って、少しうれしかった。
もらいっぱなしは何となく居心地が悪いし、誰かの誕生日の度に「もらいっぱなしだなあ…」と思うのも嫌なので、お返しをしないといけない。
ただそれまで他人の誕生日にまったく興味を示さなかった人間が、もらった瞬間に誕生日を聞き出すのもおかしいかなあ、とまた悩みだす。
そこで、クリスマスプレゼントを口実にお返しをしよう、と思い立った。
口実というのも、クリスマスにプレゼントを贈るのは、これまたわたしには理解不能なのだ。
でも彼女たちはそこまで親しくない人に誕生日プレゼントを渡すくらいだから、
恐らくクリスマスプレゼントを抵抗なく受け取ってくれるだろう、と予測した。
プレゼントをもらってから1か月弱。
時間のあるときに好きな雑貨屋さんを覗いては悩んだ。
2人ともわたしよりお洒落で、ファッションに統一感がある。
わたしが何か渡しても、彼女たちの生活に入り込む余地はないような気がした。
何に使うねん、(似非関西弁になるくらい)、みたいな物をあげるのも無意味な気がしたし。
というかこんなに悩んでること自体が、職場の先輩へのお返しにしては重すぎるんじゃないか、なんて気もしてきて。
街中がクリスマスプレゼントを買う人々で溢れるようになった頃。
偶然そのとき本を手に持っていたわたしを見て夫が言った。
「本をあげるのが、真奈らしくていいんじゃない?」と。
そうか、わたしらしいものをあげていいのか、と思った。
考えてみれば「素敵なプレゼント」は、もらう人にフィットするだけでなく、あげる側の「その人らしさ」も纏っているような気がする。
どんな本がいいか考え始めたら楽しくなった。
最初は、詩集や句集のような、余白の多い自由度の高いもののほうが、押しつけがましくなくて良いかなあ、と思って。
現代的な、軽い風の吹くような感じのものがいいな、と思って探したのだけど、
詩集や句集って、購買層からなのか装丁からなのか、けっこうしっかりしたお値段がするのだ。
本はどうやっても相手に値段が伝わるから、そこも加味しないといけないことを学ぶ。
かと言って、ノウハウ系や啓発系、流行っている本は、勉強しなさいよ、みたいに思わせてしまうかもしれない。
何よりわたしが贈る必然性がないと思った。
大きい本屋さんを上から下までぐるぐるとさまよい続けた。
そして、クリスマスフェアのところで、O・ヘンリーの「賢者の贈り物」の文庫本を発見。
これだーー!!となった。
有名だけど、大人になって改めて読む機会はそうないだろうと思ったし、クリスマス感もあるし、
さばさばしたスポーティーな感じで振る舞っているけど実は繊細で愛されたがっている(とわたしから見ると感じる)彼女に、
この寒さと温もりの入り混じったお話がぴったりなんじゃないか、と思った。
短編集だから気が向かなかったらすぐにやめられるのも、いいかなと思った。
それで近しい雰囲気でもう1冊探すことになるのだけど、すぐにワイルドの「幸福な王子」を見つけた。
これはわたしが子供の頃にかなり好きだったお話で、悲しいけれども、単純な自己犠牲とか道徳的な思いやりでは説明しきれない何かがあると思っていて。
可愛らしくてなんでも丁度よくこなす女の子をやっている彼女には、童話という形になったシンプルなものがいいかな、と思った。
どちらも宗教色が強いけど、まあクリスマスだし気にしないでほしい。
やっぱり重すぎるかなあ、やめたほうがよかったかなあ、と何度も思いながら、年末の繁忙期のせわしない中でタイミングを推し量りながら、
どうにかこうにかメリークリスマス、できた。
本心で喜んでくれているかどうかは、知らない。
でも本は腐らないし、気が向いた時にぱらっと開いてみてくれるだけでもいいな、と思う。
喜ばれたかどうかわからないのにこんなことを思うのは大変不遜ではあると思うけど、
人に本を選ぶというのは、なんだかドキドキしてワクワクする経験だった。
勧めたり、貸したりするのとは、まったく違う気持ちだった。
本を贈ることで、会話するよりもずっと、その人のことを考え、思いの丈を手渡すことができたような気がする。
少なくとも、誰が誰にあげても変わらない無難なものを渡すよりずっと良かったことは間違いない。
素敵に本を贈ることができる人に、なりたいなと思った。
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