「さよならは遊園」
ラッキー・ラビット達は歌に合わせ踊っている。
ヴィッキー。ヘンドリックス。ハリー・ザ・キッド。
みんな大好き。みんな私の友達。私は今日もひとりぼっち。母も父もできたばかりのモールでショッピングを楽しんでいる。
「ねえねえ一人?」
歌の中一際目立つ明るい声のその女の子は、友達をつれてジュースを飲んでいる。わたしは恥ずかしくて俯いた。
「あたしたちの親もお買い物だよ」
私の靴は汚れている。明るい声の女の子の靴は真っ白。他の二人も綺麗な靴を履いている。
「なんで下向くの?恥ずかしいの?」
更に恥ずかしくなりでもこれ以上首を下向きにすると地面にぶつかるからそこではじめて明るい声の女の子の顔を見た。
私と全然違う顔。祖父の怖い顔でもない。母の悲しそうな顔でもない。父の怒り狂った顔でもない。目をくしゃつかせて大きく口を横に開き、白い歯を見せている。わたしはこの女の子のこともう好きでいる。
「もしよかったらあたし達と回ろうよ!」
手をひかれ歌から抜け出す。
どのアトラクションも見るのは楽しいけど乗るのは怖い。だけどその女の子と乗ると不思議と怖いが楽しいに変わった。
アトラスタワーも惑星アクアもタイタンもアドベンチャークルーズだって乗れた。
一人がお寿司を食べたいと言い出したから、再入場するための水に濡れても落ちないスタンプを手の甲に押してもらい、ゲートの外に出てモールの側の回転寿司屋に入った。
子供だけで入れるか心配だったけどあの子が店員さんに全部言ってくれるからなんなく入ることができた。
明るい子はわさびも食べきる。生姜だって食べきる。ジュースじゃなくてこういうときは熱いお茶を飲む。私はすごいなと感心する。
いろんなことを話した。新発売のゲームのことや残りの夏休みどう過ごすかとか。
その子はグリーンランドやハウステンボスに行く予定らしかった。両方行ったこと無いからとても羨ましい家族だなと思った。話を聞いていくうちに三人は自分と同じ学校の同級生だというのがわかったけど同じクラスになったことが一度もなくてそれは自分からは結局切り出せず母からもらったお小遣いでいっぱい食べた。
ザターンの列の中で女の子はみんなに話している。
好きな男の子がいるらしい。他の二人は楽しそうに盛り上がっていたけど私はどう盛り上がればいいのかわからずその子の話を真剣に聞いている。
私もあんな風に笑顔の中で盛り上がりたい。あの子の家族のような夏休みを過ごしてみたい。友達と喧嘩したり仲直りしたり恋もしてみたい。私はこの子になりたい。
コースターは無機質な音を立てて灰色の空にのぼっていく。
もう閉園時間ギリギリなのか乗っているのは私達だけ。見えるのはホテルの連なりとショッピングモール。上から見てもやっぱり地元のモールとは全然違う大きさ。駐車場もたくさんある。
私と明るい子は先頭に乗って後ろには他の二人が乗っている。もうじきコースターは一番高いところに到達する。
明るい子はポケットからケータイを取り出してみんなに向けた。
「入って入って!ほら笑って!いくよ!せーのっピ~ス!」
体のすべてが勢いよく落下する。私は今までの私を捨て去るように叫びながら内心、あの子の全てになろうとそう決めた。