そうだ!東海道五十三次歩いてみよう。 (episode5 土砂降りの決戦、そして救世主現る?)
人は本当に辛い時に何を思うのか。...もう逃げたい。こう思うかもしれません。僕も実はそうでした。そんな5日目のはじまりはじまり。
5/7早朝。一晩寝ても足の状況はまるで変化なし。しかし「それでも進むしかない」、この心の葛藤はもはや毎朝の恒例行事になっていた。ホテルで朝食をとり、いざ出発だと靴を履こうとした瞬間、事件は起きた。
「....靴がはいらない。」
アイシングやマッサージも試みたが左足の腫れは引かず、どんなに靴紐を緩めても入る気配がなかった。そんな時窓から外を見ると、ダメ押しの大雨。そして新しい履物を買うにも店がまだ閉まっていて買えない。「どうにかこの状況打開しねぇと前に進めねぇ。」そう考えながら部屋の片隅に目をやると昨日もらった「使い捨てのスリッパ」が!!(episode4参照) 恐る恐る足を入れてみると、、、
「入った!!!!」
こうして僕はフロントで昨晩のボーイさんから応援を受け、土砂降りの街に片足スリッパ片足運動靴という変質者同然の格好で降り立った。
これが実際の写真。足のビジュアルも凄いが、ご覧の通りカッパを上下フル装備するほどの大雨だった。僕が持ち歩いてたボードは雨対策をしていなかったため上着の下にいれて抱きかかえるように持ち運んだ。そして掛川から歩みを進める。
しかし、本当に辛かった。雨で体温も奪われた。苦しみながら歩いてると金谷宿の文字。江戸時代の人って本当に同じ道を歩いていたのだとつくづく感じ、畏怖の念を覚えた。その道は決して平坦な道だけではなく峠道や山道の連続だった。
その試練の連続、そして最悪のコンディションに僕は
「もう逃げたい、俺が歩みを辞めても困る人なんて誰もいないじゃねぇか」
本気でそう思った。しかしその時、今まで歩いてきた道のりがフラッシュバックされた。話しかけてくれた方々、差し入れをくれた方々、一緒に歩いてくれた先輩方、というように一人も欠かすことなく全員の顔が僕の脳裏にはっきりと蘇った。(それはお話しした方の特徴や話した内容を一人も欠かさずメモに残していたからかもしれない。) その人たちは見ず知らずの僕を助けてくれた、そして励ましてくれた。その光景を思い出して、僕は人目を気にせず思いっきり泣いた。そして、
「逃げちゃダメだ。この東海道五十三次ハイクはもはや俺一人だけのものじゃない。みんなの思いが詰まった旅になったんだ。」
と再び前を向かせてくれた。このエピソードに盛りは一切ありません。実際諦めかけた瞬間はありました。それでも思い出を振り返っては涙を流して、前に進みました。僕は紛れもなく今まで出会った方の言葉に、優しさに救われました。
そしてスリッパでペタペタと歩みを進めると初めて"東京"の文字が。この文字を見た時、より東海道五十三次完歩というものがリアルに感じられ力が湧いた。それからはゆっくりと足を引きずりながらも藤枝市、そして第21の宿場町である岡部宿を通り過ぎ、静岡市内に入る為の関門、宇津ノ谷峠に向かった。この大雨だと外を出歩いている人はほぼ皆無。そんな中、峠に入る途中でバス待ちをしている一人の男性と遭遇し、この日初めてまともな会話をした。会話はいつも通りの「え、京都から歩いてるの!!?」という内容だったが、冷えきった体と疲れ切った僕の心には、最後の「気をつけて頑張って」という一言が何よりもあったかく感じられた。
そして峠にアタック。峠はトンネルの連続だったため雨を防ぐことができた。僕は音が反響するトンネル内で、当時ヒット中の映画「リメンバーミー」の主題歌を熱唱しながら進んだ。
「Remember me♪」
と歌っているうちに「この歌詞、今の僕の状況に当てはまりすぎやない(笑)? 一人で歩いてるだけやし。」とそんなことを一人で考えては笑ってを繰り返す、ハタから見たら変質者のそれだった。しかし、「Remember me」の思いが通じたのか峠を越えると一通のLINEが!!!
早稲田生ならご存知の方も多いだろう。元下駄っぱーず、武道家の店員、そして僕と共に第54回本庄早稲田100キロハイクにて公式の縛りプレイヤー(episode0参照)に選出された、ゆーなさんが駆けつけてくれることに。ちなみに知らない人にどんな人かを紹介しておくと、「ハイヒール×呼吸妨害用の覆面マスク×10kg近くある椅子という公式縛り」の中、100kmを完歩する男顔負けの体力モンスターです(笑) (...そして今なお5年生として在学中のお姉ちゃん的存在です。)
そんなゆーなさんが夜行バスで清水駅に駆けつけてくれることもあり、今日のゴールは静岡県清水区に決定した。そのためその日はたった約60kmほどの行程になり、もう少し距離を稼ぎたい気持ちはあったが「コンディションも悪いし、たまには早く休もう。」という考えに至った。そして峠を越え、休憩をはさみながら歩みを続けると
静岡駅に到着。この頃には土砂降りは終わり、しとしとと雨が降り注いでいた。なので一気に宿までいこうと清水駅近くのネカフェに歩みを進める。夜の静岡市内を仕事帰りのOLに颯爽と抜かれる。人と同じ方向に歩くたびに自分の足が弱り果て、歩行速度が落ちていることを実感した。それでも「ウサギとカメ」のカメのように確実に歩みを進めた。するとこんな標識も!
そしてこの標識から程なくして本日のゴールのネカフェについた。
会員登録を素早く済ませ、大量の飲み物やアイスを持ち込み自分の基地を作り上げる。そしてシャワー付きだったためすぐに雨で冷えた体を温める。「わせだ、わせだ、しあわせだー」そんな言葉が頭に鳴り響いた。そしてヨタヨタ歩きで先ほど作り上げた基地に戻りネカフェの場所をゆーなさんに伝えた僕は気づいたら寝落ちしていた...。
「ドン、ドン、ドン!!」
壁を叩くその音で起きる。コンタクトを外していて視力0.1以下の僕にはぼんやりとしか見えなかったが、そこには確かにゆーなさんがいた。寝ぼけていてあまり覚えていないが、ひとり寂しかった僕にとっては"救世主"のようだった。そして何か会話をした気もするが、またすぐに寝落ちして5日目を終えた。
5日目終了:掛川(静岡)-清水(静岡)=56km 通算329km
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正直辛くて一番泣いた日でした。この企画の特性の悪いところって、一人歩き故に公共交通機関に頼っても発信しなければバレないこと。だからこそ自分の心の弱さとの戦いでもあると思います。本当に辛かったからこそ初めて心が揺らぎました。それでも支えてくれたのは今まで応援してくれた方々との記憶でした。やはり「人」のチカラって偉大だなと再確認しました。またこの日を経験できたおかげで自分の弱さとはっきり向き合うことができ、弱さを認めることは怖いけど、その先に強くなれるきっかけがあるのかもなと思えました。
さて次回はいよいよ静岡横断編ラストにしてこの東海道五十三次連載も折り返し。ゆーなさんとの歩き旅、とあるラーメン屋さんとの出会いなどぜひ見て欲しいエピソードばかり。ではまた次回!
次回!「episode6 ご縁の循環」