塞いだ耳に嗤う楽園㊴ 壇上
「曽我圭也(そがけいや)」瀧澤の前の生徒が呼ばれた。曽我と呼ばれた生徒が卒業証書を受け取る。
入れ替わりに瀧澤が壇上に上がる。とんでも無い顔をしている。
こいつ、こんな顔をしていたっけ…?
ふと、瀧澤がベルトに手をかけてかちゃかちゃとやり始めた。
周りがまたざわつきだす。
ベルトを外し、ズボンを下した。壇上である。
悲鳴にも似た騒ぎが拡がる。
式の流れは止められない。
「瀧澤春彦」「はい」
瀧澤の名前は呼ばれ、彼は返事をした。
脱いだズボンを再度脇に抱え、彼は卒業証書を受け取る。
校長先生の顔は硬直していたように思えた。
瀧澤が壇上を下りた、その時。
周囲から教師が彼のもとに駆け寄り、そのまま会場の外に連れられて行った。
唖然とした。
私は不覚にも、どきどきしていた。
ふと、岡根唯菓の顔を見た。
彼女の顔は、少し紅潮しているように思えた。
私は、嫉妬を覚えた。