甘い汗、夏の憧れ⑰ 500円と痴漢
「ザ・ピエロ」ではいろいろなことがあった。
私の中学時代の想い出として、避けては通れない場所だと思う。
良い想い出も、悪い想い出もある。
日下部と紆余曲折ありながら友達で居続けたのも、「ザ・ピエロ」という共有できる場所があったからだろう。
変な3人組に「ちょっと来いよ」と声を掛けられ、いつぞやの桜庭の時のようにまた私は懲りずについていこうとしてしまったこと。それを日下部に止められ、学校でネタにされたこと。
メダルゲームで見たことがないような大きいメダルが出てきたので、日下部が何となく両替機に入れたら、なんと「500円」と表示されたこと。
(社会問題となる前だったが恐らくは「500ウォン硬貨」だったのか)
そういえば、私の人生で唯一経験した痴漢被害も「ザ・ピエロ」だった。
ひとりでアーケードゲームをプレイしていた時、隣に白髪でマスクをかけた痩せた男性が座ってきた。目は異様な程にこにこしながら、私の方をじーっと見てくる。
気が散る。ゲームを終わらせ「なんですか?」と聞いた。
男は「センズリやってんのか」と聞いてきた。
私はその時「センズリ」の意味が分からず、海釣りとか川釣りとか釣りの何かかと思った。近藤が釣り好きで、その頃はたまに釣り堀にも行くようになっていた時だったので、発想がそうなっていたのかもしれない。
男はマスクの中で「ニヤッ」と笑い(そう感じた)、私の股間を思い切り撫でてきた。
私はとっさに腰を引いた。男の手の感触が股間に残っている。気色悪い。
私は俯き、何も言わず、少し離れたところで当時流行っていた「ぷよぷよ」をプレイしていた日下部と木田のところに、足早に移動した。
男とは目を合わせないように顔を背けながら、しかし動向は確認しながら。
しばらくすると、男は目を三日月のようにしてニヤニヤしながら(そう感じた)、去っていた。
「あれ、浅田どうしたの」日下部に言われた。
君たちが「ぷよぷよ」している間に僕は「ぷよぷよ」されてたんだよ…とは、もちろん私は言えなかった。