お前の背中に刻む種⑮ 教義試験
「草木の会」では、教義のテストがある。
「草木の会」が説くところの日蓮の思想や「草木の会」自体の歴史を学び、試験を行うのだ。
そしてこのテストは17歳になる学年、つまり高校二年生から受けられた。
俵さんの家に呼ばれ、教材を広げた。
私、近藤。それに同い年の春宮(はるみや)。
彼は学校が違う為に「草木の会」でしか会う事がなかった。
肥後は居住地の関係で管轄が違うらしく、いなかった。組織的なことはその時の私にはよくわからなかった。
私は、まだ瀧澤とのわだかまりが解けていなかった。
孤独を感じていたのだろう。
それに俵さんのことは面白くて好きだったので、この時は顔を出していた。
春宮は部活が忙しいらしく、テスト直前になってようやく顔を出すようになった。
私と近藤が、教材を広げながらお互いのノートに悪戯書きをしてふざけていたことがあった。
その度に春宮が「あいつらサボってます」と俵さんに言う。
俵さんも「お~い頼むよ~」と笑いながら注意をせざるを得ない。
春宮は嫌な奴だな、と思った。
私は既に今まで勉強してきているし、何よりペーパーテストは得意なのだ。そもそもが教義試験は落とすための試験ではないと言うし、この分なら何なら満点だろう。
土壇場になってようやく出てきたお前が何を言う。
だいたい、彼は試験本番は部活でテストを受けられないというではないか。
それなら猶のこと、余計な事は言わないで欲しい。
私は、この春宮が少し苦手だった。
どこか、根本的な考え方が違っていたように思う。
私なら他人がサボっていようが遊んでいようが気にしない。好きにすればよいと思う。
若者が宗教の集まりに来ているのだ。多少サボるくらいでちょうどよいのではないか。
教義テスト本番。
近藤がいる。
周囲を見渡すと、金本もいた。矢代もいた。肥後もいた。
そして、一際大きな体が目に入った。北嶋だ。あいつ「草木の会」の会員だったのか。
私はテスト自体は30分程で書き終え、余りに早く出ると目立つので少し待ち、頃合いで退出した。
合格であった。