配信演劇「反復かつ連続」終演のご挨拶
このnoteは、3/26~28に上演された配信演劇「反復かつ連続」(柴幸男原作)公演のマガジン記事です。公演の詳細はこちらをご覧ください。
※本公演は終演いたしました。演目全編のアーカイブ映像を1ヶ月限定で配信しております(2021年4月末まで)。バリアフリー字幕つき・なし、どちらもございますので是非ご覧ください。
アーカイブ映像はこちら。
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全公演が終演しました
配信演劇「反復かつ連続」をご覧いただき、誠にありがとうございます。本公演の演出を務めさせて頂きました、あるがみちです。
本公演は、役者2名が配信現場である八王子市の一軒家に、カメラ・音声・字幕の配信スタッフは神奈川県にあるメンバーの自宅に、宣伝美術/当日運営のスタッフは静岡に、写真撮影/衣装メイクをしてくれたスタッフは社会人のため勤務先に、そして私は実家のある長野県で、バラバラに本番を迎えることとなりました。この文章も、終演後に役者や配信スタッフが片付け作業をしてくれている様子を見守りつつ、「申し訳ないけど何もしてやれることがないな」と思いながら書いています。
写真:終演後の役者とスタッフ
試練の多かった舞台裏
コロナ禍で、人と会うことが制限される中、移動は最小限に、各自が自分の居所で奮闘することは、沢山の困難がありました。加えて、それぞれが新生活に向け忙しい日々を過ごす中で作業を行っていることや、予算の都合で本番直前に機材をレンタルして調整せざるを得ないこと、会場にいる役者が舞台セットや機材の操作などを全て行う必要があることなどもあり、準備は難航。「感染対策のために体調管理を最優先に、無理なスケジュールで作業を行わない」という原則がありながら、本番直前はやはり、精神的にも体力的にも全員追い込まれている状況でした。
1ステージ目に配信トラブルがあったことも、原因の断定はできないものの、そうした無理がたたって起きてしまったことであると思います。役者、スタッフに無理をさせてしまったことは、私の責任です。ご観劇頂いていた50名様近くのお客様、十分にお楽しみいただける舞台がお届けできず、申し訳ございません。
暗い話を並べてしまいましたが、それ以降の公演が無事に成功し、なんとか千秋楽を迎えられた現在は、座組一同、安堵と喜びに溢れております。苦しいことがあっても、公演後の達成感は何物にも代えられない。「これだから演劇はやめられない。麻薬なんだ。」ともう一人の主宰の金子がボヤいていました。同感です。
写真:稽古中の役者の金子とワイプの有賀
「やってみたい」と「応援したい」をつくること
本公演の座組メンバーは、新年度からそれぞれ新しい生活を始め、本当の意味で、バラバラになります。そんな中での本公演は、大学での演劇活動の集大成でもあり、新たな試みに果敢に取り組んだ公演でもありました。
“zoomでも、劇場でもなく、「家」”を合言葉に、一軒家から複数のカメラを使って配信を行ったこと、既存の脚本に2名の役者がそれぞれ別の解釈で取り組んだこと、ろう者の支援をされている家主さんとの座談会や字幕付き公演を行ったこと、公演を通じて配信会場や家主さんの家具の販売活動の宣伝を行ったこと、SNSでの宣伝の充実やメディアで取り上げてもらうためのプレスリリースの作成を行ったこと…挙げればきりがないほど、初めてだらけの公演で、とてもワクワクしました。新しいことに挑戦できる風土があったことは、今回の座組の最大の魅力であると感じています。
写真:家主さんの思い出と共に配信会場を紹介した本公演のInstagram
今回、自分の参加した演劇の公演を初めてステージナタリーさんに取り上げて頂きました。もちろん、本作の脚本を書かれた柴幸男さん(ままごと)のネームバリューがあってのことですが。それでも、本公演の魅力は何であるかを制作メンバーで議論を重ね続け、広報活動を行ってきたことが少しは実を結んだのではないかと喜んでいます。もちろん、その先で、本公演にご期待を頂き、多くのお客様にご観劇頂いたことが1番の喜びです。
サークルの定期公演以外で公演の主宰をするとき、 “わざわざ開催する意義のある取り組み”を設けることは難しく、学生時代にずっと悩んできたことでした。自己満足ではなく仲間たちが「やってみたい」と思えて、お客様が「応援したいな」と思える公演を設計すること、そしてそれをやりきることは、なかなか上手くはいきません。今回それが実現できたのは、参加してくれたメンバーが、大学生活の中で知見を広げ、アイディアを前向きに実行に移し、実現する技術を身に着けてきてくれたからです。沢山のアイディアや知識を持ち寄ってくれた仲間たちには、感心させられてばかりでした。
リモート稽古をやりきった役者たち
そして、役者の2人とは、公演の動き出しから終演まで、1度も直接会うことなく稽古を進めてきました。今までも沢山の公演を一緒に作り時間を過ごしてきた2人は、私にとって心の拠り所のような存在です。リモートでは時に2人の気持ちを十分に汲み取ることができず、演出をする私も意図を伝えきれないもどかしさがありました。本番直前で最も役者の仕事に集中したいときに、それを現場でサポートできないのも申し訳ないなと思いました。それでもなんとか、励まし合い、心を通わせてきました。私たちは遠くに居ながらも密な1か月を過ごしました。今では、「私はたしかに、みんなと一緒にいたな」と実感しています。
写真:稽古おわりの役者の2人とワイプの有賀
本作に込めた想い
ままごとの柴幸男さん脚本の「反復かつ連続」は、よくある日常風景を描いていながら、なぜか目が離せられない、不思議な作品です。台詞のリズムに身を任せるのは心地が良く、次々と表現される女性たちの仕草にはクスっとさせられ、どこか懐かしくもあり、時に身に詰まる思いにさせられ、気がつけば自分を見つめているような気持ちになります。
私たちはこうした作品の魅力に加えて、「家の記憶」と「家族の気配」というテーマ、そして、2人の役者が演じることで見えてくる「豊かさとは何か」というメッセージを伝えようと制作してきました。どちらの家族にも、それぞれの豊かさと貧しさがあります。生まれる家庭は選べず、家庭の違いは現実では厳しい格差を生みます。でも、人の幸福は、比べられるものではないことも事実です。演出の未熟さは重々承知しつつ、作品の持つ魅力と共に、そのことが少しでもお客様に感じていただけられていたら、幸いです。
最後になりましたが、公演を支えてくださった皆様、お家を貸してくださった家主様、ご観劇頂きました全てのお客様に感謝申し上げます。ご観劇頂き、誠にありがとうございました。
2021年3月28日
演出 有賀実知
追記:本公演は座組メンバー8名のポケットマネーで運営しております…!メンバーが新生活を生き延びれるよう、noteまたはDoneru(投げ銭)へのご支援をよろしくお願いいたします…!
写真:Wキャスト予約特典の【座組メンバーの「反復」横跳び動画】を撮影している躍動感のある有賀
※【公演全編の360°VR動画】も併せてご用意しております。特典は後日メールにてお送りいたしますのでお待ちください。