プロローグのまま終わった恋
彼と初めて会ったその日は、居酒屋さんで一緒に食事をした。
お店を出た後、近くに止めてあった私の自転車を、まるで自分の物みたいに押しながら歩き出した彼を思い出して、今でも胸がきゅんとする。
そのまま最寄り駅の前まで歩いて、次いつ会える?なんて話をして、「じゃあね」と言って別れた。 自転車を漕ぎ出してスグ、駅に向かっているであろう彼の方を振り返る。
あれ?いない…?
一瞬そう思ったが辺りを見渡すとすぐに、どうやら道を聞かれているらしい彼と見知らぬ女性がいるのが見えた。 その光景に何故だか妙にほっとして、まだよく知りもしない彼の素をふいに見せられた気がした。 もちろん彼は、私の視線にはまったく気づいていなかった。それがまた少し微笑ましくて、思わず口角が上がる。
もしかしたらこの時から既に、私は恋に落ちていたのかもしれない。先に私に恋をしていたはずの彼よりも、先に。
そんな出会いから、数日前、もう一度彼と再会し、今日で三週間ほど経った。
色々あって、彼とは今、いわゆる音信不通状態になってしまった。恐らくフェイドアウトされたみたいだった。
彼を追ったり責めたりする気にはならなかった。やろうと思えばできたけど。
色々合ったから。 私の中でちゃんと好きな相手だと確信したから。
だけど、どうやら彼の中にはもう私は居なくなってしまったようだった。
フェイドアウトするとはそう言う意味だと思った。
その後一度だけ連絡してみたけれど、何で返事をくれないとか、私の何がだめだったのかを聞くことは我慢した。それを聞かれたくないから突然終わらせたのだろうから。そんな人に何を聞いても真実が返ってくるとは思わなかった。
悲しい悔しいの前に、情けないという気持ちになったのは初めてだった。
会って一発殴ってやりたい。そう思えたほうがまだ楽だったかもしれない。それかもっと鈍感でいられたら良かった。
そもそもここまで散々、フェイドアウトされたと言ってきたけれど、そういうことする人にはどうも思えなかった。(そう言い聞かせて壊れそうな自分をどうにか守っていたのかも)
後どのくらい待ったら連絡が来るだろう?とおもってしまう私がいた。
昨日の夜、初めて会った日と同じ場所をたまたま通った。思わず足が止まってしまった。 寒いからできるだけ立ち止まりたくないのに、その場に立ち尽くしてしまった。 どのくらいいたかわからないけど結構いた。でも涙は出なくて、冷え切って疲れてしまったのでタクシーで帰った。
都合のいい女にすらなれなかったんだと思うと私のプライドはボロボロだった。